第69話

「やはり甘いな。危うく理性を失くしそうになった」


 顔を上げたレオンが口元を拭って、はぁ、と悩ましげに息を吐いた。その手の甲に見える、血の跡に驚く。首元に触れても痛くないし、傷口も見つからないけど……。


「血、吸ったの?」

「ああ、悪いな」

「ううん、私が血を飲んでって言ったんだもん。でも全然気づかなかったよ。痛くなかったし、むしろわけわかんないくらい気持ち良か――」


 慌てて口をつぐんでも後の祭りだ。レオンが口角を緩く上げる。


「なんだって?」

「なんでもない!」


 見事に赤面する私に、レオンはくっくっと面白そうに笑いを漏らした。


「傷も残らないからな。痛みを感じることはないらしい。俺は吸われたことがないからわからないが」

「私が吸ってあげようか? 首筋をガブって!」


 さっきからからかわれっぱなしで、思い切り噛み付いてやりたい気分だ。


「……おまえに噛みつかれたら痛そうだな。だが、やりたいならやってみればいい。おまえなら何をしても許してやる」


 優しい目を向けられてたじろぐ。愛されていると、私に自覚させる甘い表情カオ。直視できなくなってきて、ぷいと顔を逸らす。


「冗談だよ。私、そんなのしないもん」

「ミナ」


 レオンは私の頬に手のひらを当てて、せっかく背けた顔を戻した。血を飲んだからか、尋常じゃなく辛そうな様子は無くなってよかったけど、相変わらず瞳は赤くて、射るように私を見つめる。


「もう一度、ちゃんと言ってくれるか。俺のことが好きだと」


 私から少しも目を逸らさずに、レオンが乞う。さっきは普通に言えたのに、この雰囲気で好きと言うのは恥ずかしくて、茶化したかった。


 だけどレオンの表情があまりに真剣で、とても誤魔化せなくて……私はおずおずと、気持ちを口にする。


「レオンが、好き」


 言い終わった瞬間、唇に熱いキスが落ちた。一旦離して目が合えば恥ずかしさを感じるけど、すぐに角度を変えてもう一度。次第に深くなり、絡み合う熱。何もわからない。ただただ、翻弄されていく。


「どこにも帰るな。俺のそばにいろ」


 甘い熱に溺れる中、耳元でそっと呟く、切ないレオンの声を聞いた気がした。

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