第68話

私の唇の傷口にちゅ、ちゅ、と優しく触れては、ピリリとした痛みとともに、ちゅくちゅくと舐め取られる。


 余裕が無さそうだったのに、とても優しくて、丁寧なキスだ。唇が離れていった時には、私はぽやんとしてしまっていた。


「できる限り優しくする。おまえに触れてもいいか?」

「う、うん……」


 緊張でガチガチになる私を見て、レオンは薄く笑んだ。ベッドに押し倒されて見上げると、その瞳の赤い色と同じくらい、ううん、それ以上に熱を含んだ眼差しから、目が逸らせなくなる。男のくせに色気がすごい。当てられそうだ。


「なんだ、急にしおらしくなって。決め台詞だか何だか知らないが、さっきのように得意げに言ってみろ」


 からかうように目を細め、私に覆い被さったレオンが、私の首筋に唇を落とす。


「ひゃっ……!」


 何度も舐めた後ちゅっと吸い上げられて、か細い悲鳴が漏れた。


「どうした? ほら、聞いてやるから」


 レオンは私の頬や瞼、そして唇にキスを落としていく。甘い雰囲気に、心臓がドキドキ鳴り止まない。こんな状況で、平然と好きな映画の話なんかできるわけない!


「顔が真っ赤になってるぞ。目も潤んでる、女の顔だ。阿保のおまえらしくないな」

「い、意地悪! レオンは代永マサシ以上のワルだ!」

「何だよそれ」


 フッと笑ったレオンに、再び首筋を舐め上げられる。すごく気持ちいい。気持ちよくて、フワフワして、もうわけがわからない。

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