第67話

レオンはぎょっとして私を見た後、表情を険しくした。


「来るなと言っただろう! 傷つけられてもいいのか?」

「言ったでしょ? 私、レオンが好きなの。だから傷ついたりしないし、苦しんでるのを見るのは辛いよ……」


 私は自分の唇を噛む。小さな痛みと共に血が一筋、唇から顎へと伝った。燃える夕焼けみたいな瞳が、私の口元を食い入るように凝視する。


「な、何をしてるんだ……」

「上書きしてくれるんだよね?」

「……!」


 レオンは何かを耐えるように眉を寄せた。


「この状況でそんなことをして、どうなるかわからないのか? 何を考えてる」

「何を考えてるって、レオンが好きだってことだよ。何度も言わせないでよ」

「おまえが俺を? そんな素振りはなかったが。ギルバートに無理矢理キスされて、動揺して口走っただけじゃないのか?」


 確かにレオンから見れば、私の告白は唐突に思えるのかもしれない。レオンが私のため留守がちになって初めて、私は自分の気持ちに気づき始めたんだから。


 家族を選ぶとかレオンを選ぶとか、あっちの世界、こっちの世界、そんなことは後から考える。こんなに好きなんだから仕方ない! まずはこの気持ちと向き合うんだ。


 だから信じて貰えないと困る。私はちゃんと気持ちを伝えたいのだ。キッとレオンを見据えて、勢いよく口を開く。


「『おまえには見えねえのか!? この熱いハートがおまえを求めて、愛・羅武・勇と叫んでるんだぜ!』」

「……は?」


 レオンは呆気に取られたように、ぽかんとして私を見ている。


「私が宇宙一尊敬する、『夜露死苦・タイマン愛羅武勇』の主人公! 漢の中の漢・倉持ブン太の、告白の時の決め台詞なの! どう? かっこいいでしょ!? 真似する時は愛羅武勇のとこ、ちゃんと区切り入れてね。アクセントがポイント!」

「…………」


 白けた顔をしたレオンは、長々とため息をついた。


「やはり阿保だな、おまえ。こんな時に……色気の欠片もない阿保女」

「ちょっと、阿保とはなによ! 毎回、阿保阿保言わないで。本当に阿保になるでしょ!」

「心配するな、おまえは元から阿保だ」


 小さく笑ったレオンは私を引き寄せて、噛み付くようなキスと共に、私の口元の血を舐めとった。熱くて、やわらかな感触にドキッとする。


「馬鹿でも阿保でも……いや、阿保だからこそ、おまえが好きだ、ミナ」

「阿保だからこそって、なんか複雑……んっ」


 唇にキスが落ちる。すごく熱い。

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