「レオンが、好き」

第65話

クリスやノア達が兵士を全て倒して、私は無事、5人と共に城に帰った。城周りを騎士団が総出で護衛してくれていて、5人が私のため、無理して城を空けて助けに来てくれたことを思い知る。感謝しかなかった。


 ようやく見慣れた玄関ホールに入り、ほっと息をついた瞬間、どっと疲れが襲う。思った以上に緊張してたみたいだ。

 と、クリスが眉を下げて声をかけてきた。


「ミナ……本当にごめん。ボクが不甲斐ないばっかりに、ギルバート兄さんに連れ去られて、酷い目に遭わせて」

「そんな、クリスは助けようとしてくれたじゃない。クリスのせいじゃないし、私は酷い目になんか遭ってないよ。クリス達がすぐに助けに来てくれたから。だから謝らないで?」


 クリスは泣きそうな顔で、「ミナが無事でよかった」と呟いた。その言葉にレオン、ノア、双子も頷いて優しい眼差しを向けてくれて、みんなが本当に心配してくれたのが伝わってくる。私は一人一人に笑顔を向けた。


「本当にありがとう、みんな。助けに来てくれて嬉しかった。安心したら、ちょっと疲れちゃって。今日はもう寝るね」


 部屋に戻ろうとすると、クリスの手当てを受けていたレオンに引き止められた。


「ミナ、おまえは狙われている。今回のことだけで、女王が諦めるとは思えない。今後は一人で行動するな。一応見張りは増やしたが、相手が悪すぎる。誰でもいいから護衛役を決めろ」


 レオンの台詞を聞いたクリスが、表情を曇らせた。


「狙って来るのはギルバート兄さんだよね。ボクや双子の二人じゃ、正直ミナを守り切れないと思う。悔しいけど……」


 アダムとイヴも同意なのか、神妙な顔で俯いている。


「申し訳ありませんが、私も自信はありません。相手がギルバート様ともなれば、レオン様しか対応できないと思われます」


 ノアにまで辞退されて、私は眉を下げた。


「でも、レオンは怪我してる。頼ることなんてできないよ」

「俺は吸血鬼だからな。数時間あれば、ある程度は治る」


 疲れの見える顔色ではあったけど、レオンは不敵に笑った。



 ◇ ◇ ◇



 レオンの部屋で寝泊まりするのは初めてではなくて、むしろ慣れっこなはずだったのに、その晩はやたら緊張した。


 同じ部屋、レオンから離れたベッドに横になって、眠りが訪れるのを待っていても落ち着かない。


 想いを通じ合わせてキスをした。その鮮明な記憶を、何度も思い出してしまうのだ。


 私はモヤモヤする頭を振った。相手は怪我人だ。何を一人で意識してるんだ私は。


 眠れない中、レオンを絶えず気にしていた私はすぐに気づいた。彼のベッドから聞こえてくる、押し殺した、苦しそうな荒い吐息……。


「レオン?」


 簡易ベッドから降りて、巨大なレオンのベッドに近づく。レオンはベッドの上に身を起こし、浅く早いリズムで呼吸しながら顔を歪めていた。


 胸元を寛げたパジャマから覗く、青白い肌。額に滲む汗はこめかみを伝い、首筋へと流れていく。尋常じゃない様子に、私は心配になってベッドサイドに寄った。


「レオン、大丈夫? もしかして、怪我のせいで熱が……?」


 私は何を考えてたんだろう、レオンはこんな状態なのに……。額に手のひらを伸ばそうとすると、ふいと顔をそらされた。


「それ以上俺に近寄らない方がいい」

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