第64話

さすがに怯んだのか、ギルバートさんは余裕なく私を兵士の方につき飛ばし、ふんと鼻で笑う。


「怒りで吸血鬼化するとはな。我が弟ながら面白い奴だ」


 ギルバートさんを強く睨みつけたレオンが、それまでとは段違いのスピードをつけて殴りかかる。ギルバートさんも拳を繰り出したけど、うまくかわしたレオンの重たい拳は、しっかりとみぞおちに入った。


 小さく呻いて膝をついたギルバートさんは、そのまま崩れ落ちるようにして地面に倒れる。レオンも片膝をついたけど、倒れることなく持ち堪えたようだ。


「レオン!」


 レオンの元に向かおうとした私は、兵士に抑えつけられた。キッと睨みつけ、その目を強く見つめる。ゆっくりと落ち着いた声で、クリスと何度も練習した暗示を試みる。


「私を離して。拘束を解いたら眠りなさい!」


 兵士は私を食い入るように見た後、剣で私の手首の縄を断ち、急に目を閉じて倒れた。私はレオンに駆け寄り、身体を支える。


「レオン、血がこんなに……」


 大量の血が、黒い特攻服に広範囲に染み付いていた。身体中を強く殴られて、血を吐いていたのだ。


「大丈夫だ。心配するな」


 気丈に振る舞っていても辛いはず。私はレオンの特攻服を強く握りしめる。


 私が作った服を着て、私を助けに来てくれた。こんなになるまで必死になって……。込み上げた涙が、視界に滲む。


 夢を叶えてくれた人。宇宙一の、私の番長。


「私……初めてのキスは、レオンが良かった……」

「おまえは、自分の言ってることの意味をわかってるのか?」

「わかってる。わかってるよ。私、レオンが好きだって」


 真紅の瞳が、私をじっと見つめる。この赤い色が、初めは怖かったのに。なんて綺麗で、愛おしいんだろう。


「忘れろ。全て上書きしてやる」


 ぐっと引き寄せられ、唇に落ちた柔らかな感触から、血の味がする。私の血を甘いと言った、レオンの気持ちがわかった気がした。

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