第59話

「やってやる。絶対にここから出るんだ!」


 決意を新たにして、まずはドアノブに手をかける。当然鍵がかかっていて開かない。


 部屋を隅々まで調べて、出られそうな所を探すけど見つからなかった。やっぱり窓しかない。壁をよじ登り、高い窓を目指してみるんだけどなかなか上手くいかない。何度目かにずり落ちた時、手の側面を擦りむいてしまった。


「痛った……」


 滲み出る赤い血。拭うものを探していると、重たい扉が向こう側から開けられた。


「苦戦しているようだな」


 目が合った瞬間、ギルバートさんは眉を顰めた。


「おまえのその血は……」


 コツコツとブーツを鳴らして、ゆっくりこちらに近寄ってくる。私の手首を握って傷口を確かめる、赤く変貌した――吸血鬼の瞳の色。元々赤っぽいけど、今は完全に真紅だ。


「は、離して!」


 乱暴に振り払う。ギルバートさんは特に表情を変えないまま、棚から小さな金属製の箱を取り出し、そこから出した包帯を私の手に巻き始めた。巻き終わる頃には、その双眼は、すっかり元の赤褐色に戻っていた。


 その後、彼が出て行ってからも悪戦苦闘したんだけど、さすがの私も物理的な脱走を諦めた。


 無い知恵を絞りつつ、ギルバートさんが運んできた食事を数回摂りながら、時間の感覚の薄い一夜を過ごす。


 彼が入ってきた瞬間に不意をついて出ようとしてるんだけど、隙が無さすぎた。

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