私の番長、私の夢

第55話

「あ、レオン」


 執務室でのミシン作業を終えて出た廊下で、帰ったばかりのレオンが自室に入るところに遭遇した。食事の時以外で、久しぶりに会った気がする。


「ああ、おまえか。今日も頑張ったのか」

「うん」

「そうか」


 途方もなく優しい眼差しに、胸が苦しくなった。


「レオン、無理しないでね。毎日出かけてくれてるけど、私のために負担かけてるのが申し訳なくて」

「気にするな、俺が好きでやってることだ。俺はおまえに惚れてるからな。おまえが帰りたいなら、全力で叶える。それだけだ」


 惚れてるなんて、当たり前のように口にする。だけど私の胸はより苦しさを増した。


「レオンは、それで平気なの?」


 強く見つめて、問いかける。レオンは訝しげな顔をした。


「何が言いたい?」


 そう言われて、私は自分がわからなくなった。何が言いたいんだろう、私は。考えれば、喉から言葉が出ていきそうになった。


 いつか帰ることになるなら、少しでも一緒にいたい、なんて。


「手がかりを探しに行くのに、私も連れて行ってほしい」

「何故だ?」

「それは……」


 言葉に詰まる私に、レオンは厳しい顔をした。


「おまえと買い物に行ったのとは訳が違う。遊びに行ってるわけじゃないんだ、危険も伴う。マリアは出先で命を落とした。大切なおまえを、軽々しく連れてはいけない」

「それでも、レオンと一緒に行きたいの!」

「なら理由を言え。城で何か嫌なことがあったか。クリスティか?」


 見当違いなことを言っているレオンは、私の気持ちに気づいてないみたい。それはそうだろう。私だって私の気持ちがわからない。


 レオンが必死に頑張ってくれてるのに、私は恐れている。元の世界に帰る日が訪れることを。そんな日が来なければいい、そう思っている。それは何故?


「嫌なことがあったから、レオンについて行きたいんじゃない。ただ一緒にいたいだけ。だって私、レオンのことが……!」


 言いかけた瞬間、頭に浮かぶ家族の顔。この気持ちに気づいてはいけない。気づいてしまったら、私は選んでしまうかもしれない。私を待っている家族を捨てて……この人を。


「……ごめん、何でもないの」


 唇を引き結び、レオンを避けるように自分の部屋に入り込んだ。

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