第53話

隠すなら暴いてやる!


 私はバイクから飛び降りて前に回り込み、バイクに跨ったままのノアの両肩に手を置く。ノアの目をじっと見つめると、思いの外強く見つめ返してきた。


 それに怯みながらも、クリスに教わった通り呼吸を合わせて、ゆっくりと言い聞かせるように口を開く。ノアに暗示をかけるんだ。


「ノア、私に教えて。さっきの言葉の続きは?」

「いけませんよ、ミナ様」


 ノアは厳しい目をした。どうやら暗示は全く効いてない。


「私の本心が気になりますか? 勝手に覗き見しようとするなんて、お行儀が悪いですね」


「だっ、だって! マブダチになりたいのに、ノアは腹の中全く見せてくれないし!」


「だからと言って無理矢理覗くのは、友人という関係からますます遠ざかるだけの行為かと思いますが……はしたないですよ。ミナ様には、レディとしての教育が必要なようです」


 ゆっくりとバイクから降りると、ノアは私の至近距離に立った。身長差から自然と見上げる形になる。


「私が、貴女の教育係になって差し上げましょうか?」


 指先で私の頬をスッと撫でて、そのまま顎を掬い上げる。流れるようなその仕草は、まるでお姫様にキスをする王子様みたいだ。


「立派なレディになれたなら、貴女の知りたがっている私の本心……教えてあげますよ。知りたいんでしょう……?」


 そっと囁く声と甘い瞳にクラクラする。ほんの少し意地悪な色を混ぜた、駆け引き上手な大人の微笑み。すでに手玉に取られていることに気づいて、私は一気に赤面した。


 ダメだ、ノアには勝てない! 赤らみ続ける頬を隠しきれず、観念した私は目を逸らす。


「ご、ごめんなさい……私、デリカシーなかった」

「わかって頂けたならいいんですよ。これから教育係としてしっかり指導しますから、ご安心ください」

「えっ」


 ノアは不穏な眼差しのまま微笑んでいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る