レディの心得とノアの本心
第52話
ミシンには慣れても布はダメにしたままだったので、翌日、私はノアに頼んでエルドラへ向かうことにした。
外へ出る時はゴーグル付きシルクハットにベスト、パンツにブーツと、初対面の時の格好をするノア。今やかっちりした燕尾服姿を見慣れているだけに、新鮮で戸惑う。
そう言えばノアのバイクに乗せてもらうのは初めてだ。振り落とされないように、しっかり密着するのが妙に照れ臭い。
「私には、着て欲しいと言って下さらないのですか?」
「えっ?」
過ぎていく荒野の景色の中、唐突な質問が飲み込めない私は瞬いた。
「貴女が一生懸命制作している、特攻服というものです」
「ノアも着てくれるの?」
「その服自体に興味があるわけではありませんが……ミナ様に認められた男性が着る物なのでしょう?」
「いや、別にそういうわけじゃないんだけど」
「貴女にとって、私はただの使用人なのでしょう。でも私にとって貴女は……」
そのままノアは黙り込んだ。ノアにとって私は……なんだろう。
私にとってのノアは、今や大切な人だ。マブダチだ。ノアもそう思ってくれたならどんなに嬉しいだろう。
「……すみません、喋りすぎました」
期待外れの言葉に、私はがっくりと気落ちした。ノアが初めて見せた、本音の片鱗。でもこうやってすぐかわすんだ。
近づこうとすれば即座に引かれる、使用人としての一線。そこを超えなきゃ、マブダチになんかなれない!
「そこまで言ったなら教えてよ、ノア」
「お気になさらないでください。何でもありませんので」
頑なな態度に、私はムッとする。
「ノア、バイク停めて!」
私が強めに言うと、ノアは素直に速度を落として停止した。
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