第51話

翌日からは夜の練習はやめたけど、私は毎日必死に練習した。一週間を過ぎたあたりから、次第にコツを掴めるようになってきた。


「……じゃあ、一通り、ひとりでやってみるね」


 半月ほど経ったある日、ミシンに向き合って、私はごくりと唾を飲み込んだ。私の背後で、双子も固唾を飲み見守っている。


 今日はいよいよ仕上げテストだ。私がうまくミシンを使いこなせるようになったか最終チェックする。一度大きめの怪我をしただけに、緊張感がすごい。


「えっと、まず、足の位置に気をつけて……」

「そう、そこです」


 イヴが力強く頷いてくれる。二人に教わった通りのタイミングで、回し車に右手を。助走をつけて力強く踏み込み、つま先と踵をうまく使い分けて、低速に……!


 複雑な曲線や急カーブを超えて、無事最後まで縫い終えた。


「できた!」


 私は大歓喜して二人を振り返る。


「ありがとう、アダム、イヴ! 二人のおかげだよ!」


 右手と左手でそれぞれ二人の手を握り、笑顔でぴょんぴょん飛び跳ねる。ようやく満足した私が止まると、二人は優しい顔で私を見ていた。


「? 二人ともどうしたの?」


 イヴが感極まったように、傷と包帯だらけの私の手を優しく握る。


「ミナ様は素晴らしい方です。こんなに短期間で、専門職の人間でも困難を要するミシンを使いこなして……ミナ様の人並外れた努力の結果です。使用人の僕らにも偉ぶらず、気さくに関わって下さったこと、嬉しかったです」


「俺もです! 上手くいって感動しました。また何かあれば声をかけてください。俺たちでよければ、いつでも力になりますから!」


 アダムも傷に配慮してくれながらも、力強く手を握ってきた。


「ありがとう。二人も私の特攻服着てくれる?」

「はい、喜んで。……ですがミナ様、それはお認めになった男性に着て欲しいとおっしゃっていたのでは?」


 アダムが困惑気味に言うと、イヴもこくこくと頷く。私はにっこりと笑った。


「うん、だから二人にも着て欲しいの」

「「えっ……」」


 二人は声を重ねた後、面食らったように瞬きを繰り返す。シンクロ率100%、さすが双子。


「特攻服はね、番長だけじゃなくてその仲間も、チーム全員で着る物なんだよ! 二人にも似合うと思うな」


 ようやく我に帰った二人は、ぽーっとして私を見つめてくる。私がどうしたのか二人に聞こうとした時、不意に背後にノアが立った。私は驚いてビクッとしてしまった。さすが忍者だ。


「ミナ様はレオン様の大切な客人ですよ。わかりますね?」


 私の背後から肩に手を置いたノアは、硬い声で二人に告げる。と、アダムとイヴはなぜか青ざめて、「申し訳ありません」と細い声を揃えて呟いた。

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