第48話

やがてノアは執務机に戻り、双子と私の作業が始まった。


 アダムと名乗った双子の兄の方がミシンと向き合い、手本を見せてくれる。自由自在にミシンを操る華麗な手捌きと足捌き。あまりの巧さに私は大興奮した。


「すごい、ミシンと一体化してるみたい! どうやってるんですか!?」

「いえそんな……それより敬語はおやめください。お願いします」


 本気で困った様子で言われて、私は渋々折れた。


「わかった、じゃあアダムとイヴって呼んで良い? 私もミナって呼んで欲しいけど……ダメだよね」

「申し訳ありません」


 ノアをチラ見しながらイヴが恐縮している。どうやらノアが二人の上司だ。


 たしかに上司のノアって怖そうだな。笑顔で厳しいことグサリと言ってそう。


 それから数日間、二人の甲斐甲斐しい指南により、私の足踏みミシン訓練が始まった。二人の知識や腕はこの世界において、私の高校の服飾デザイン科講師たちよりはるかに優れているように思える。


「僕らはリドーラの街外れにあった、小さな洋裁店の息子です。エルドラに数々の店が出来てから、客を取られてしまって。途方に暮れていた時、レオン様が僕ら家族を取り立ててくださったんです」


 そう教えてくれたのはイヴだ。二人の見分けもなんとなくつくようになった。気の弱そうな方がイヴ。兄貴肌で堂々とした表情の方がアダムだ。


 リドーラという二人の故郷は、エルドラに行く時通るヨーロッパ風の街だけど、住んでいるのはハーフやクォーターの吸血鬼で、彼らはその中で唯一の純血一家だったらしい。街外れに住んでいたのは、その辺の事情のせいだろうか。


 城壁の中に静かな住宅地があるけど、純血の吸血鬼達は基本的にそこに住んでいると、この間レオンに聞いた。ほぼ全世帯がアスター騎士団に所属していて、リドーラの街の民に比べて地位も高い。同じ吸血鬼でも、純血か混血かで隔たりがあるのかもしれない。


「ミナ様、始めていいですか?」

「あ、うん。大丈夫」


 いけない、集中しなきゃ。


「まずは足の位置が良くありません。踏み込んだら、つま先と踵の使い分けが重要です。よく見ていてください」


 アダムの言うことをよく聞いて、観察して、必死に真似してみるけどうまくいかない。

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