マブダチになってあげる!

第44話

翌日、私は初めて、稽古をつけてもらう相手にクリスを選んだ。マブダチになると言った責任はとる。


 見事な庭園に佇んで待っていると、クリスが遅れて姿を表した。


 いつものメイド姿じゃない。長い髪を一纏めに結い上げて、白いシャツに黒いリボンタイ、膝丈のズボンにブーツという男の子らしい格好だ。


 頭に装着する金属製のごついゴーグルは、この世界のトレンドだろうか。レンズの中に大小様々な歯車が飾られているから、帽子のような感覚で着用しているのかもしれない。


「ありがとう、ミナ。ボクを選んでくれて」


 クリスはひどく緊張している様子で、私もつられてしまう。


「よろしくね、クリス」

「うん。この前はごめんね、思い詰めてたんだ。もう夜這いなんて絶対しないから許して欲しい。……まだ怒ってる?」

「ううん、大丈夫。忘れるから」


 首を横に振る私に、クリスはホッとした様子だ。


 それにしてもどんな稽古をするんだろう。可愛らしくて華奢なクリスには、殴ったり切ったりはあまり似合わないけど……。


 クリスに促され木のベンチに座ると、少し間を開けて、クリスも隣に座った。


「人を騙して話を聞き出すって役目があるから、ボクは誰にも深入りできない。常に偽物のボクを演じて、常に嘘をついてる。だけどミナは、ボクが悪い嘘つきじゃないって、親友になってくれるって言った」

「うん。私ちゃんと、クリスのマブダチになってあげる!」


 クリスは驚いた顔をした後、俯きがちなまま微笑んだ。


「ありがとう。初めてだったんだ、誰かにそんなこと言ってもらったの。あの時、ミナはボクを天使だって言ったけど、ボクにはミナの方が天使に見えるよ」


「天使なんて……レオンに聞いた? 私の身体がマリアさんの作り物だったって」


「そうなんだ。でもそんなことどうでもいいよ。ボクはミナと同じ顔のマリアを好きにならなかったけど、ミナのことは好きになったんだから」


 そっと伸びたクリスの手が、ベンチに置いていた私の手を躊躇いがちに握る。

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