第42話

「初めはマリアと同じ顔のおまえを俺のものにして、マリアの代わりに愛そうとした。だがおまえは、マリアとは程遠いミナだった」

「…………」


「がっかりしたものだが、笑うおまえを見て気づいたんだ。マリアじゃないからこそ、おまえがいいんだと。……俺はおまえに出会って、マリアと決別することができたんだ」

「レオン……」


「どんな姿でも、ミナ、おまえはおまえだ。だから俺のそばにいろ。俺にはおまえが必要だ」


 私は私。その言葉が胸にストンと落ちて、気持ちが楽になった。


「ありがとう、レオン」


 微笑めば微笑み返される。その不敵な笑み方には、背景の荒野とバイクがよく似合う。美しい金の髪、透き通った切長の瞳。顔立ちもそうだけど、レオンは存在そのものが格好良い。


「ミナ、おまえの本来の顔はどんなだった?」

「平凡な顔立ちだったよ。素朴な感じ」

「まあ、そうだろうなおまえは」

「あっ、今ちょっと馬鹿にしたでしょ!」 

「別にそんなことはない。おまえがその素朴な面で俺の前に現れたとしても、俺はおまえを好きになっただろうからな」

「っ!」


 ストレートすぎる言葉に、心臓を鷲掴みにされた気分だ。レオンはニヤリと口角を上げた。


「なんだ、顔が真っ赤だぞ。男に惚れられたことがないのか?」


「そっ、そんなことない、何人か付き合ったことあるし! クリスも私が好きだって……」


「あいつはまだ幼い。自分の感情をコントロールできないんだろう」


 涙を流すクリスの顔が浮かぶ。仲直りしなきゃな。マブダチになるって言ったんだもん。


「幼いって、クリスは何歳なの?」

「15だな」


 やっぱり年下だった。


「レオンは?」

「俺は23だ」

「じゃあノアは?」

「あいつは25だったと思うが。おまえは幾つだ?」

「私は17」

「なんだ、おまえもまだクソガキだな」


 馬鹿にするように笑われてムッとする。


「ちょっと! 私、クソガキじゃな――」

「帰るぞ。これからおまえの居場所は、あの城だ」


 とても優しい眼差しが、ひどく落ち着かなかった。

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