第40話
「僕にできたのは、マリアの人形をたった一体、作りあげたことだけ。でもその召喚士たちに話を聞けば、今度こそマリアを復活させることができるかもしれない」
「駄目だ。そんなことは許されない。自然の摂理に背いて生き返らせても、マリアは悲しむだろう。あれはそういう女だ。俺は神など信じちゃいないが、神になる気もない」
「そんな……レオン、君だってマリアに会いたいだろう!?」
「だとしても、マリアはミナと違って死人だ。死者蘇生の絶対条件、賢者の石をどうやって生成する? 研究所で、不可能だとさんざん思い知っただろう」
ジークさんは唇を引き結んだ後、私を引き寄せた。
「ならせめて、このマリアを返してくれ。違う人格で構わない。偽物でもいい、僕はマリアと過ごしたいんだ。大切な妹で、たった一人の家族だから」
「こいつはマリアじゃない。マリアは死んだんだ。ミナをおまえには渡せない。ミナをマリアの身代わりとしてしか扱わない、おまえにはな」
レオンは私を奪い返す。ジークさんは眉を吊り上げ、怒りをあらわにした。
「マリアを守れなかった君が、またマリアを死なせるのか!?」
「今度は死なせない、絶対にだ。ミナは俺が、命に代えても守る。……それとこれは返してもらうぞ」
レオンはいつの間にか、目当ての本を入手していたみたいだ。レオンの手の本を確認したジークさんは、悔しそうに唇を噛んだ。
「そもそも吸血鬼で、貴族でもある君がどうして、ただの人間で庶民のマリアに手を出した!? マリアはそれでずっと苦しんでた。君との子供が産まれても、純血にはならないからな」
表情を変えず黙って聞いているレオンに、ジークさんが捲し立てる。
「混血の吸血鬼が、普通の人間とほぼ変わらないのは君だって知ってるだろう! その子が国境を守って行くのは困難だ。だからマリアは、自分の存在がアスター家の弱みになるんじゃないかって、いつも嘆いてたよ……。結局子供を産む以前の段階で、弱みとして狙われたんだけどな」
ジークさんは皮肉な笑いを漏らした。人間と吸血鬼が結ばれたら、そういう問題が出てくるのか……。
「人間だとか吸血鬼だとか、理屈じゃなかった。一緒に生きて行くならマリアがいいと思った。それだけだ」
小さく呟いたレオンの台詞には、マリアさんへの想いが詰まっていた。ふと、胸に寂しさのような、不思議な感情が湧き上がる。
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