第37話

「マリアって誰?」


 しんとした部屋に、私の声がぽつりと響いた。黙って寝た方が良かったんだろうけど、聞かずにはいられなくて……。


「知りたいのか?」

「それは……気になるし」

「……そうだな、おまえは話したからな。夢だと言った特攻服の話は、おまえにとって、とても大切なことなんだろう?」


 私は驚いた。私の夢を誰かに話すと、馬鹿にされたり笑い飛ばされることがほとんどだった。でもレオンはそうしない。なんだかむず痒くて、嬉しかった。


「その人は私に似てるの?」

「ああ、よく似ている。瓜二つと言うくらいにな。初めて会った時は本当に驚いた。マリアはゆっくり知的な喋り方をするが、おまえはやや早口で間抜けな話し方をするから、すぐにマリアではないとわかったがな」

「ちょっと、間抜けってあんまりじゃない!?」


 背後から、小さく笑う気配。


「マリアは俺の婚約者だった女だ。エルドラに住んでいて、兄と二人で、スチームバイクやスチームモービルを扱う店を切り盛りする娘だった」

「スチームモービル?」

「スチームエンジンを搭載した四輪車だ。エルドラで走っているのをおまえも見ただろう」


 ああ、あの不思議な車みたいなやつか。


「マリアは普通の人間だったが、俺の正体を知っても恐れなかった。芯が強くて、優しい女だった」


 全てが過去形の話し方、今は城にはいないマリアという人。


「その人とは別れたの? どうして?」

「死んだから。殺されたんだ。俺は守れなかった」


 思っても見ない話に、私は息を呑む。


「守れなかった……?」

「吸血鬼を忌み嫌い、迫害する人間達の団体に連れ去られたんだ。マリアとエルドラに出かけた日、目を離した隙にな。見つけた時にはもう……」

「……!」

「あの日以来、俺は自分を許したことはない」


 言葉を失った私は、何も言えず黙り込む。レオンが鏡を割ってしまうほど鏡嫌いになった理由ってこのことだろうか。自分を嫌悪して、鏡に映る自分を殴っていた……?


「今後は、一人で勝手な行動をするな」

「ごめんなさい……」


 再びしんと沈黙が落ちた。やがてレオンがゆっくりと話し出す。

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