第36話

「夜中に騒ぐな」


 レオンだ。部屋に入って来たことに全く気づかなかった。吸血鬼って忍者の集団なのかな……。


「おまえは何をしてる、クリスティ」


 レオンが厳しい眼差しでクリスを咎めると、クリスは渋々とベッドから降りた。


「兄さん、ミナはマリアじゃない。どんなに似てても別人だよ。ボクはミナのこと本気なんだ。ボクに譲ってよ」

「ミナはモノじゃない。譲るとか譲らないとか言う話じゃない。そうなんだろ、ミナ」


 私が頷くと、クリスは悔しそうに唇を引き結び、部屋を飛び出して行った。また出てきたマリアという名前。以前、寝ぼけたレオンが口にした名前だ。私に似てるって人の名前が、マリアなのかな……。


 レオンと二人の室内がしんと静まり返る。


「来い、ミナ」

「え?」

「またクリスティが来るかもしれない。俺の部屋で寝ろ。昼間言った通り、おまえは俺が守ってやる」

「えっ、でも」

「おまえに手は出さない。男に二言はない」


 そう言われて躊躇いがちについて行ったはいいけど、レオンの部屋にはベッドは一台しかない。レオンは真顔でとんでもないことを口にする。


「さすがに、こんな深夜にノアと使用人達を叩き起こして、ベッドを運ばせるのも気が引けるからな。今夜は我慢しろ」

「えっ」


 我慢しろって、まさか一緒のベッドで寝ろってこと!? 冗談じゃない、そんなの無理だ!


「じゃあ私、ソファに寝るよ」

「なんでだよ。手は出さないと言ったはずだ。俺が信用できないって言うのか?」

「いやそういうわけじゃないけど……」


 確かにレオンって、嘘はつかなさそうだけど!


「でも色々とまずいと思うのですが!」

「何がまずいんだ。さてはおまえ、俺を意識してるのか?」

「そ、そんなわけないでしょ!? 私レオンのことなんか!」

「なら問題ないだろう。つべこべ言わずにさっさと寝ろ」


 レオンはベッドに入ってしまった。渋々同じベッドに入り、レオンと背中合わせに横になる。スプリングの軋む音に、張り詰める緊張感。


 こんなことなら自分の部屋で寝てた方がよかったかな……。

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