「おまえは俺が守ってやる」

第34話

ギルバートさんに会ってから、レオンは警戒心を露にした。王室近衛騎士団というのは、女王様を守る精鋭部隊らしい。確かにギルバートさんは強かった。


 アスター家率いる騎士団を束ね、稽古をつけているのはレオンの他ノア、クリスということだ。そこで私も護身術として、三人の誰かに稽古をつけてもらう話になって早数日。私はレオンとノアだけを選び続けていた。クリスには悪いけど、あんなことがあって避けがちだ。


「ふぅ、疲れた……」


 今日も稽古が終わり、私は額の汗を拭った。


 城の敷地内、見事な庭園の横での稽古は気分がいい。本当はちゃんとした騎士団訓練所があって、日々騎士たちが訓練してるみたいだけど、規則で団員以外は入れないらしい。


 敵が正面から来た時、背後から来た時など、色々想定して対処を教わった。珍しくレオンとノア二人に相手してもらったけど、やっぱりうまくいかない。私は真っ直ぐ走る以外の運動は苦手だ。


「お疲れ様です、ミナ様。これをどうぞ」


 爽やかに微笑むノアから、タオルを受け取る。さすが執事、スマートな紳士の笑顔だ。


「おまえ、上達が遅いぞ。鈍臭い女だな」


 対するレオンは直球でダメ出し。私はムッとした。


「ちょっと、そんな言い方ないでしょ! これでも足はそこそこ速かったんだから」

「逃げ足だけ速いとはお似合いだな。まあ、護身術は念のためだ。おまえは俺が守ってやるから安心しろ」

「!」


 守ってやる、だなんて。直球なだけにサラッとそんな台詞を吐くのだ。面食らった後、私は思わず赤面する。


「ん?」


 ふと視線を感じて見てみれば、木の影から覗くクリスと目が合った。


「クリス……」


 泣きそうな顔をして踵を返し、走り去って行く。可愛らしい大きな目を潤ませられると、罪悪感が……。


「放っておけ」


 冷たいレオンの台詞に頷くこともできず、私は黙り込んだ。

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