第33話

「ご立派な王室近衛騎士長・ギルバート様が、こんな小娘に何の用だ?」


 レオンの嫌味ったらしい話し方を見るに、どうやら面識ありのようだ。


 ギルバートと呼ばれた青年は、卒倒している中年男性をチラと見た。


「女王陛下は、そこに倒れている男の仲間……自称召喚士達から詳しく話を聞き出した。得体の知れない異界人を、野放しにはできないと仰せだ」

「ミナを連れて行くつもりか? させないけどな」


 いつかのように凄んで、レオンはメンチを切る。ギルバートさんは軽く笑った。


「おまえは王宮でも評判になっているぞ、レオン。辺境のアスター侯爵は、迷惑条例で禁止されても変わらずバイクを乗り回し、獲物を探しては喧嘩に明け暮れる『不良侯爵』だとな」


「ふん、勝手に言ってろ。それよりどうするんだ、ギルバート。俺はミナを渡す気はないが」


「実の兄を呼び捨てとは偉くなったな、“泣き虫レオン”。また私と喧嘩するか? もう、泣いても許してやらんぞ」


「黙れ。家を捨てて出て行ったやつが、兄貴風吹かせてんじゃねえぞ……!」


 殴りかかったレオンを受け流し、ギルバートさんは逆にレオンを殴りつけた。痛々しい音に息を呑む。


「女王陛下には、異界人を連れてこいとはまだ命じられていない。今日は見逃してやる」


 言い捨てて、ギルバートさんは去って行く。あの強いレオンが、一方的に殴られるなんて。頬を押さえながらふらつくレオンを、慌てて支える。


「レオン、大丈夫?」

「俺はあいつに、一度も勝ったことがない」


 悔しそうに呟く姿は、強くなろうと必死に足掻く少年のようだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る