第29話

レオンは意表をつかれたようだ。それはそうだろう。突拍子もないことを言ってるのはわかってる。


「私の夢は、私の認めた番長に、私の作った特攻服を着てもらうことなの。喧嘩上等って言ってもらえたら最高!」

「喧嘩上等……?」

「喧嘩してやる、受けて立つぜ! って意味。カッコいいでしょ?」

「…………」


 レオンの眉間に皺が寄る。


「おまえ、本当に変な女だな」

「それはどうも!」


 そんなの言われなくてもわかってますよ! レオンは観念したように深く長いため息をついた。


「……わかった、俺も無理矢理は好きじゃない。まず先に、おまえの心を奪ってやる。それまでおまえには手を出さない。部屋も与える。それでいいな」

「特攻服は? 着てくれるの?」

「ああ、何だか知らないが着てやるよ」

「エルドラへは?」

「ああ、連れて行ってやる」


 喜びが込み上げる。私は夢に近づけたんだ。限りなく近いところまで。


「嬉しい! ありがとう、レオン!」


 レオンの手を取り、満面の笑顔ではしゃぐ。と、私のその顔を見たレオンは、なぜか驚いたように息を呑み、しばらく黙り込んだ後、小さく笑んだ。


 どうしてだろう。そんなわけないのに、どこか泣きそうにも見える。


「レオン……? どうしたの?」

「おまえは、そんな風に笑うんだな」


 戸惑いながら、憂いを含む美しい表情に目を奪われていると、レオンがじっと見つめてくる。


 彼の在り方と同じように、揺るぎのない、力強い眼差し。あまりに真っ直ぐに見つめられて、私は耳まで赤くなってしまった。


 心を奪うと宣言された直後だ。私を惑わせようとしてるのかと思ったけど、狙ってやってるようには見えない。


 レオンはふと、私の首元を飾るネックレスに、綺麗な瞳を向けた。


「その宝石、おまえには勿体ないかと思ったが、案外似合っているな」

「なっ、どういう意味?」

「クリスティからも聞いただろうが、持ち主が人間である時、災いから守ってくれるらしい。役目を果たしたら消えるらしいが……おまえを守って宝石それが消えるなら、俺としては本望かもな」

「え……?」

「昼食の後、エルドラへ向かう。準備をしておけ」


 そう言って執務机に戻ってしまう。レオンが何を考えているかわからなくて、私は困惑した。

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