第27話

ノアなら一晩一緒でも私を襲ったりしないと思った。それでも夜が近づけば、さすがに緊張感が襲う。意識してしまったのは、クリスを振り切って、入浴を一人で済ませることになってからだ。


 使用人は極力姿を見せられないという謎ルールのせいで、バスタブカーテンの向こう側の見張り役にはノアがついた。入浴を終えた私はカーテンを開けて、おずおずとノアに声をかける。


「ごめん、ノア。待たせちゃって……」

「いえ、お気になさらず」


 ヒラヒラフリフリのネグリジェを着てノアの前に出るのはとても恥ずかしかった。ノアの方は普通通りだったけど。


 そしてこの世界、電気系統の発達は全くのようで、夜はキャンドルランプやランタンで過ごすんだけど、すごく薄暗い。


 ノアの私室に運び込んで貰った移動式ベッドで、私は何度目かわからない寝返りを打った。


 少し離れたベッドにノアが寝ていると思うと緊張して、気づけば喉がカラカラになってしまった。確かテーブルの上に水差しがあったし、少し飲んで落ち着こう。ベッドから降りた私は、何かに躓いた。


「あっ!」


 そのまま倒れて、絨毯に膝と手をつく。と、白シャツのシンプルなパジャマ姿のノアが、私の目の前にいた。


「大丈夫ですか?」


 頼りないランプの灯の中、屈んで私を覗き込む、赤い瞳がやけにはっきりと見えた。私は怪我をしたわけじゃない。みんなが「甘い」と言った血も出てない。なのに……ノアは赤い瞳。


 赤い色は欲情の証。クリスに言われた言葉が頭の中をぐるぐる回り、私は取り乱した。


「だっ、大丈夫だから!」


 差し出されたノアの手を取らず、慌ててベッドに潜り込み、布団を頭まで被る。結局その夜はろくに眠れなかった。

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