第20話

ふと、遠くに白と黒の煙が見えてくる。爆音を鳴らしながら近づいてくるのは、見覚えあるバイクだ。やがてバイクを停めて飛び降りたレオンが、私の背後の黒装束に走って向かっていく。


 私が恐る恐る振り向いた時には、黒装束達は全員倒れていた。


「ミナ、おまえこんな所で何をしてる」

「えっと、あの……」

「城から出るなと言ったはずだが」

「ご、ごめんなさい」

「俺が来なかったら今頃どうなっていたと思う。考えなしに動くな。無力な自分を自覚しろ!」


 どうやらかなり怒っている。返す言葉もない私がしゅんと項垂れると、レオンは何か言いかけてやめた。


 結局それ以上何も言わずに、黒装束達をロープで縛ったレオンは、不思議なクリスタルが内部で光る、平らな砂時計のような形状のものを取り出した。手のひらサイズだ。


「追加で残党狩りした。至急もう一台寄越せ」

『……かしこまり……した』


 相手の声は雑音混じりで途切れ気味だ。まさかあの変なモノは通信機器だろうか? 聞きたかったけど聞ける雰囲気じゃない。


 バイクの後ろに乗せられて城に帰ると、レオンはまず外門の騎士を怒鳴りつけ、「こいつを二度と外に出すな」と言いつけてしまった。


 城の中に入れば、開口一番に「ノアはどこだ!」と叫ぶ。ノアの方も私を探していたようで、私たちは廊下で出くわした。


 レオンは出会い頭に、ノアの顔面を思い切り殴りつける。壁に背中を打ちつけて、崩れ落ちるように座り込むノアと、怒りの形相のレオンに、私は目を見開いて息を飲んだ。


「ノア! なぜ目を離した!? こいつが敵だったなら今頃城は全滅だぞ! それに俺が偶然居合わせなければ、こいつは殺られていた所だ!」

「申し訳ありません」


 短く呟いたノアの声が弱々しい。口の横と頬が広範囲に赤黒く内出血している。ああ、ノアの綺麗な顔が……!


 俯いて座り込んでるのは、強く殴られて立てないのかもしれない。私の心を罪悪感が埋め尽くした。


「やめて! 悪いのは私でしょう!?」


 私はノアを背中に庇って立ち塞がった。レオンの迫力に身がすくむけど、必死にその場に踏ん張る。


「私が勝手に出てったの、ノアは関係ない!」

「どけ! 俺はノアと話している」

「イヤよ! どかない!」


 レオンと睨み合う。と、背後からノアに肩をやんわりと押され、退かされた。ようやく立ち上がれたみたいだ。


「申し訳ありませんでした、レオン様。いかなる処分も受け入れます」


 レオンはしばらく無言でノアと目を合わせた後、イライラと舌打ちする。


「おまえは反省しておけ、ノア」


 言い捨てたレオンに手を引かれ、私はレオンの私室に連れ込まれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る