「ボクといいことしよう?」
第19話
声をかけてきた人はクリスだった。
「どこへ行かれるのですか?」
「あ、あの……ノアの部屋に呼ばれて……私が退屈だから、本を選ばせてくれるって」
冷や汗を流しながら、苦しい言い訳を口にする。クリスは探るような目で私を眺めた後、頷いた。
「ノアの部屋はあちらですよ」
「あ、そっか、ごめんね方向音痴で……」
作り笑いでクリスをやり過ごし、私は玄関ホールから外へ出ることに成功した。石造りの表階段を駆け降りて、広大な敷地を必死に歩く。
軽く30分は歩いて、ようやく城壁の門扉にたどり着くと、見張りの騎士がすぐ私に気づいた。
「貴女様は、アスター卿がお連れになった……」
「レオンを出迎えたいの。外に出してくれる?」
「しかし、私共は何も聞いていませんので……」
騎士達は開ける気が無いようだ。私は奥の手とばかり、アスター家に代々伝わるという、首元の宝石を見せつけた。瞬時に騎士達の顔色が変わる。
「通しなさいっ! わたくしは侯爵夫人ですわよ!」
レオンを真似てドスの効いた声で嘘を宣言すれば、騎士は慌てて門扉を開けた。
喜び勇んで外に出て、荒野の中の一本道を歩き出す。が、私はすぐに途方に暮れた。私にはバイクもないし、エルドラへの道も覚えてない。手がかりは一本の細い道だけだ。
「夢を叶えるためよ。頑張るしかない!」
レオンのあの調子では、簡単には城から出してもらえないだろう。
「エルドラまで、片道何時間だろう」
バイクでも時間がかかる道のりだ。再び30分ほど歩いた所で、自分の無謀さを呪いたくなってきた。荒野の景色は変わらないし、街も見えない。
「どうしよう。やっぱり帰るべきかな……」
と、呟いたその時、急に背後から肩を掴まれた。
「見つけたぞ。やはりこの付近にいたか、生贄」
「!!」
生贄、という単語に、恐怖を思い出した身がすくみ上がる。
恐る恐る振り向けば、複数の黒装束だった。後ろから来たということは、城からつけられていたのかもしれない。
「同胞達は捕まったが、我らはまだ諦めていない。神に命を捧げるがいい!」
「きゃああああ!」
絶叫した私は、もつれる足で駆け出した。見通しのいい荒野では隠れる場所もなく、全速力で真っ直ぐ走る。この逃げ方じゃ長続きしない。私が絶望した時だった。
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