第16話

クリスの後について朝食室に入ると、朝から信じられないほど豪華な食事が、広いテーブルに並んでいた。


 焼きたての白いパンに美味しそうなオードブル、スープ、肉料理、魚料理、ワイン。私のお腹が音を鳴らした。そういえば昨日から何も食べてない!


「派手に腹を鳴らして、下品な女だな。食事を恵んでやるからさっさと座れ」


 小馬鹿にした嘲笑を浮かべたのは、食事中のレオンだ。その背後には執事の格好をしたノアさんが控えている。


 このレオンが宝石を贈ってきたなんて何かの間違いだろうか? ムッとしながら座って、遠慮なく食事を口に運ぶ。高校で開催されたテーブルマナー講習会、真面目に受けておいてよかった。


「美味しい……!」


 繊細な味に感激していると、先に食事を終えたレオンは席を立ち私を見た。その目線だけでも嫌味だとわかる。


「俺は出かけてくるが、ミナ、おまえのスパイ疑惑はまだ晴れていない。素性のはっきりしないうちは監視下に置かせてもらう。城から出るのも禁止だ。ノア」

「はい」

「こいつを見張っとけ」

「かしこまりました」


 信じられない、それって軟禁じゃん。言い返したかったけど、口に食べ物を詰め込み過ぎて無理だった。だって美味しすぎるんだもん。


 慌ててモゴモゴ咀嚼する私の様子を見て、レオンはフッと嘲笑を残して出て行く。なんか猛烈にムカつく!


 食事を終えた私は、ノアさんに連れられて執務室らしき部屋にやってきた。


 黙々と作業するノアさんを横目に、お洒落なソファにじっと座って、時間が過ぎるのをただ待っている。


 暇だ。すごく暇だ。こんなに時間があるならレオン用の特攻服を作り始めたいんだけど……。


 贅沢は言わない、とにかく何かやることが欲しい。


「あの、ノアさん。私に何か出来ることはありませんか?」

「貴女はお客様ですから……申し訳ありません、退屈させてしまいましたね」


 ノアさんは優雅な動作で立ち上がると、壁一面の本棚から本を一冊取ってきた。にこりと微笑んで、私にそれを渡す。


 レオンはレオンでキリッとした美形だけど、ノアさんはまたジャンル違いの美形だ。属性は王子様系。柔和で大人びた眼差しに、モテそうな甘い顔立ち、品の良い微笑み方。


「ありがちな物語ですが、退屈しのぎにはなると思いますよ」


 頷いて、受け取った本をパラパラとめくる。そこには、見たこともない不思議な文字が並んでいた。私が眉を寄せると、ノアさんが小首をかしげる。

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