第15話

「アスター家に代々伝わる宝石です。このお城に嫁いで来られた方が持つものですが、特にその方が人間だった場合、あらゆる災厄から守ってくれると言い伝えられています。アスター家は吸血鬼ヴァンパイア一族ですからね」

「えっ。私嫁いでないけど」

「そうですね。それを渡された理由は、ミナさまが人間だからじゃないでしょうか」


 そう言われて、困惑しながら手に取る。光を反射して輝くその宝石は、ダイヤモンドによく似ていた。こんな大きなダイヤモンド、見たことないけど。キラキラ綺麗で、いつまでも見つめていられそう。


「その宝石は日光に弱いので、気をつけて下さいね。誰も試したことがないからわかりませんが、言い伝えによると、日光に当て続けると蒸発して消えてしまうそうです」

「わかった。でも代々伝わるとか、大切な宝石なんだよね? どうしてそれを私に?」


 レオンとは出会ったばかりだし、昨日なんか突き飛ばしたのに。


「ミナさまは、お顔もお声も、あの方によく似ていらっしゃいますから……話し方が違うので、別人だとはわかるんですが」

「あの方?」


 クリスは苦笑しただけで何も言わない。なぜいきなり宝石を贈られたのかわからないけど、宝石に罪は無いので、遠慮なくつけてみた。私はキョロキョロと周りを見回す。


「鏡を見たいんだけど、無いの?」

「レオンさまがお嫌いで外してしまったので、この城には置いていないんです」

「嫌い? 鏡が?」

「はい。ある日突然、ご自分の姿を見たくないと仰って。不便ですが、レオン様は鏡を見れば殴って割ってしまいますから。こちらも諦めました」

「ふーん……」


 あんな美形なのに鏡嫌いなんて、なんかあったのかな。鏡が無いのは不便だけど、無いなら仕方ない。ふと肩から溢れ落ちたクリスの髪の毛に目が行く。


「クリスの髪も茶色で綺麗だね。顔も可愛いし、天使みたい」

「天使なんてそんな……私は嘘つきですから。気づけば周りには誰もいなくて、いつも独りぼっちですよ」


 投げやりな言い方に、きょとんとしてクリスを見る。とても寂しげな目をしていた。


「嘘つきなの?」

「はい」


 クリスは悲しそうに目を伏せる。私は首を横に振った。


「ううん、クリスは違うよ。そうじゃない」


 映画『夜露死苦・タイマン愛羅武勇』の悪役である、敵対するチームの総長・代永マサシは、息を吐くように嘘をつくキャラクターだった。彼は卑怯で、人を陥れる為ならなんでもやった。


「『本物のワルは罪悪感なんか持ち合わせちゃいねえ。根っからのワルなんだよ……!』」

「は?」


 声真似までして代永の台詞を語ると、クリスは大きな目をぱちくりさせた。


「クリスは嘘をついてるのかもしれないけど、それは本意じゃないんだよね?」

「それは……そうですけど」

「自分を嘘つきだって気にしてるクリスは、根っからのワル……じゃなかった、悪い嘘つきじゃない。やっぱりクリスは天使だよ」

「えっ……」

「独りぼっちなんて、悲しいこと言わないで。私でよかったら一緒にいるし。友達……ううん、マブダチになろう!」

「ま、マブダチ?」

「親友ってこと!」

「……!」


 クリスは衝撃を受けたように固まった後、花が咲いたようににっこりと笑った。


「ありがとうございます、ミナさま」


 目の淵にうっすら涙まで浮かべて、照れたように頬を染めて。可愛すぎる笑顔に、私は鼻血が出るかと思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る