第13話

「メイドのクリスティです。主人の無礼をお詫び致しますわ。さあ、どうぞこちらへ。お部屋に案内します」


 手を引かれて部屋から出る。


「私のことはクリスとお呼びください。お名前を伺っても?」

「美波です。あの、クリスさん」

「さん、は要りません。クリス、です」

「く、クリス……」

「はい、ミナさま」

「私はここにいていいんですか?」


 困惑気味に尋ねる。


 レオンには襲われかけたし、ここが安全なのかわからない。けどレオンがいなかったら間違いなく黒装束に殺されていた。ここを一人で出ていく勇気はない。


 それにレオンには……やっぱり特攻服を着て欲しい。お願いしても聞いてくれそうにないけど、絶対に着て欲しい。もう私の特攻服を着る番長は、レオン以外考えられない。


 考えこむ私を他所に、クリスはしっかりと頷く。


「もちろんですわ、城の主人のお客様ですもの。お部屋はこちらをお使いになってください。ゲストルームです」


 廊下を少し歩いた先の部屋に通された。さっきの部屋(レオンの自室?)ほどじゃないけど、広い部屋だ。元の世界では滅多にお目にかかれない、天蓋付きのベッドに乙女心が踊る。私をそのベッドに座らせると、クリスは気遣わしげな顔をした。


「首筋から血が出ていらっしゃいますわ。大丈夫ですか?」

「あ、大丈夫です。もうなんともな……」


 言いかけた私の身体は、ビクッと震えた。屈んだクリスが、突然私の首筋の血を舐めたのだ。


「甘い……ですね」

「クリ、ス……!!」


 アイスクリームでも舐めるように、可愛らしくペロペロとしてくる美少女の肩を、遠慮がちに押す。と、クリスの目にどきりとした。赤く美しい、真紅の瞳……。驚いた私がもう一度よく見直すと、栗色の瞳だった。


「あれ……?」


 私は目を擦る。見間違い……? 気のせいだったのかな。


 レオンの話によると、クリスも吸血鬼なんだろうけど、同性だ。女の子のクリスは、異性である男の人の血しか欲しがらないはず……。


「ミナさま、お疲れですよね。ゆっくりお休みになってください」


 優しく肩を押され、ベッドに横になる。通り魔に襲われてからずっと続いていた緊張の糸が切れて、瞼が落ちてきた。眠りに落ちる直前、ふと目をうっすら開けた時、燃えるような赤い瞳を見た気がした。

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