第12話

その時ふいに響いた、コンコン、というノックの音が、私を現実に引き戻した。


「レオンさま〜?」


 扉の向こうの可愛らしい女の子の声に、ハッと我に返った私は、目の前の男を力の限り突き飛ばす。火事場の馬鹿力っていうのか、結構な力が出たと思う。ドスン、と派手な音を立てて、レオンさん……もとい、レオンはベッドから落ちた。


「ってーな、何すんだよ!」


 不満げな顔で睨みつけられながら、私は唇をわなわなと震わせる。


「それはこっちの台詞! 急に襲い掛かってくるなんて最低! 強姦魔!」

「は!? 俺はまだ何もしてないだろうが!」

「しようとしてたでしょ!? ヘンタイ!」

「この俺に向かって変態だと? おまえ、いい度胸だな」

「喧嘩上等!!」


 高らかに叫ぶと、私はベッドから飛び降りてレオンの胸ぐらを掴んだ。合意もなしに襲うなんて信じられない!


「レオンさま〜? 開けますよ?」


 と、再び響いた可愛らしい声の主が、返事を聞かずに扉を開ける。


 姿を現したのは、メイド服を着た美少女だ。ウェーブががかった栗色のロングヘアに、髪と同じ色のお人形みたいな大きな瞳、長いまつ毛、桜色の唇。


 可愛すぎる……まるで天使みたい。まだ幼さの残る顔立ちは年下かも知れない。美少女は私とレオンを見比べて、プンプン怒り出した。


「レオンさま! その方に何をなさっていたのですか!? 不潔です!」

「クリスティ……どの口が言ってる。それによく見ろ、殴られかけてるのは俺だぞ」

「まあ、レオンさま。なんてことを仰いますの? レディに対して失礼ですわ!」


 うんざりした様子のレオンを差し置いて、クリスティと呼ばれた美少女は私の前に跪き、手の甲に口付けた。


 これって男の人が女の人にする行為だと思ってたけど、女同士でもするのかな? 気恥ずかしかったけど、にっこり微笑まれて思わず見惚れた。可愛い。とにかく可愛い。

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