ヴァンパイア城で喧嘩上等!
第9話
どうやら都心部から田舎へ向かっているのか、バイクは歯車仕掛けの街を抜け、草原を過ぎて、私が思う普通のヨーロッパ風の街並みを走っていく。
赤茶色の三角屋根に煙突、蔦が絡まった白い壁、小石が敷き詰められた石畳。絵本の世界に入ったような、可愛らしい街並みだ。
そんな街の住民たちがぽかんと見送る中、スチームをもくもく吹き出すバイクで激走する。
またか、みたいな生暖かい眼差しのおじさん、歓声を上げる子供達の前を、すごいスピードで通り過ぎた。次第に緑や民家は減っていき、荒れた岩場に造られた細いコンクリートの道になった。
やがて頑丈な城壁に囲まれた、広大な城が見えてくる。外門の騎士がバイクを見るなり門扉を開け、敷地内の大きな住宅地を抜けてしばらく走って、ようやく屋敷前に着いた。表階段の先に頑丈な扉がある。
私が殺されかけた黒装束の屋敷とは比べ物にならないくらい大きく、立派な洋館だ。白塗りの壁、赤い尖った三角屋根の瓦の下に、逆さまにとまっているコウモリ達がちょっと不気味……。
「これは……何のお城ですか?」
「アスター侯爵家所有の城だ」
「アスター侯爵?」
「俺はレオン・アスター、この城の主だ。アスター侯爵家は、国境付近一帯の領主……つまりエルドランドル王国の国境を守っているのは、この城に住む連中と、離れの別棟や壁内の住宅地に住む大勢の騎士団、そしてそれを束ねる俺だ」
よくわからないけど、何か凄そうなのはわかった。
レオンさんと屋敷に入ると、広い玄関ホールにいた若い二人の執事に「お帰りなさいませ」と出迎えられた。短髪に品の良い顔立ちの二人は同じ顔だけど、双子だろうか。目が合えばおどおどと逸らされる。多分私と同じくらいの歳だし、成り立ての執事ってとこかな。
彼らに上着やゴーグル、重たそうな手袋を渡したレオンさんについて階段を上がり、二階の部屋に入った。
高級感溢れるアンティーク調のソファやテーブル。やたらと広い部屋だけど、天蓋付きの巨大なベッドがある。ここは寝室だろうか?
戸惑いながら思考を巡らせる私に、レオンさんは探るような鋭い目を向けた。
「おまえはどこの国から来た? スパイかと思ったが、俺の正体を明かして個室に二人、隙を見せてみても何もしない。それにそんな目立つ格好で忍んでくる間抜けもいねえだろ。おまえ、何者だ?」
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