第8話

レオンさんは目をぱちくりさせてから、盛大に眉を寄せる。


「おまえ、何を言ってるんだ? 頭がイカれてんのか? いいから来い!」


 手を引いて連れて行かれた先には、バイクが停まっていた。どうやら私が見慣れたバイクとはやっぱり違う。金とシルバー、黒で統一された重厚なデザインをしていた。


「ノア、後処理は頼む」

「お任せください、レオン様」


 レオンさんはクリスタルの耳栓のようなものを片耳に入れると、私の耳にも同じものを入れた。


「な、なんですか?」

「それを入れておけば、風の中でも会話できる。さっさと乗れ」


 バイクに跨るレオンさんの後ろに恐る恐る跨る。レオンさんが指先でスイッチを捻ると、黒煙と蒸気を吹き上げてピストンが高速回転し、バイクは爆音を出しながら急発進した。


「きゃああああ!」


 驚いた私は、咄嗟にレオンさんの背中に抱きつくようにしてしがみつく。振り落とされるかと思った。


 仕方ないけど、逞しい背中に密着しすぎて落ち着かない。私は何人かと付き合ったことはあるけど、手を繋いだことしかないし。


 勿論、特攻服を着て欲しいなんて頼めるほど、親密にはなれなかった。言い出しにくいデリケートな話なのだ。


 風を切るように走りながら、左右に蒸気が逃げていく。


「おまえ、スチームバイクに乗るのは初めてか? 余所の国では、未だ移動手段が馬車のみらしいな。このエルドランドル王国の技術力はここまできた。こいつのスチームエンジンは俺が作ったんだぜ」


 得意げに弾む声は、幼い少年のように生き生きしていた。助けてくれたし、悪い人ではないような気がする。そうだと思いたい。


「このバイクを、あなたが?」

「ああ、俺はしばらく王立研究施設にいたからな。技術開発局の連中に混じって、よくエンジンを弄っていた」


 よくわからない国の名前も街の様子も、このバイクも、レオンさんの話す内容も、全て私の記憶にはないしわからない。


 やっぱりここは異世界なの? 夢なら早く覚めて……。レオンさんは私をどうするつもりなんだろう。

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