第7話

「俺を誰だと思ってる? おまえら庶民が好き勝手つけた呼び名、知らないとは言わせねえぞ」


 レオン……さんは両手の親指をパンツのポケットに突っ込み、取り囲む黒装束達を睨みつける。


「『不良侯爵』を舐めるなよ! かかってこい!」


 ドスの効いた声で叫んだレオンさんに、野次馬と黒装束達が揃ってざわめき立つ。私はぽかんと口を開けて、その様子を眺めていた。


 低い声で脅しをかけながら、顎を引いて斜めに睨む、レオンさんの“メンチの切り方”。凄みすら感じさせる圧倒的な存在感と迫力、ありえない喧嘩の強さ。


 その上見た目も、映画『夜露死苦・タイマン愛羅武勇』の主人公・倉持ブン太を彷彿とさせる、金髪ヤンキーそのもの。


 彼だ。彼こそ、私の特攻服を着るのに相応しい“番長”だ……!


 ぴたりと攻撃を止めた黒装束達に、レオンさんは鼻で笑いを漏らした。


「何だ、かかって来ないのか? お前らの腰の剣はただの飾りか? 間抜け共が!」


 その挑発に乗って再び襲いかかる黒装束を、レオンさんは拳一つで、あっという間に全て倒してしまった。こちらを振り向く彼にどきりとするも、彼は私なんか眼中にない様子で赤毛の青年を見る。


「この黒装束のやつらは何だ。知ってるか、ノア」

「召喚士と自称する者達です。日々怪しげな儀式を行っているとか」

「ああ、例の胡散臭い連中か。近衛兵にでも突き出しとけ」


 赤毛の青年はノアと言うらしい。ノアさんがロープで黒装束達を拘束し始めると、近づいてきたレオンさんはようやく私を見た。


「そのおかしな格好は何だ? 耳のものは翻訳機コンバータか。おまえ、この国の人間じゃねえな。ついて来い、おまえには訊くことが、」

「あのっ!」


 必死に縋り付く私の剣幕に、レオンさんは少したじろいだ様子だ。


「なんだよ」

「喧嘩上等って言ってくれませんか!?」

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