第6話

恐ろしいほど美しい顔の青年だった。長いまつ毛に、ガラス玉のように澄んだヘーゼルブラウンの瞳。鼻筋の通った精巧な顔立ちに、細く柔らかそうな、明るい金髪。


 そして驚くのはその格好だ。頭に装着した金属製のゴーグルには、飾り付けに大小様々な歯車が施されている。豪華な装飾を施されたロングコート、パンツをインしたロングブーツ。コートの下はシャツにベスト、首元にはリボンタイ。


 そして右手のみに装着した、金属製の、肘上まである歯車仕掛けのごつい手袋が目を引く。手袋というか機械の義手みたい。フィンガーレスグローブみたいに指先が出てるから、義手ではないんだろうけど……。全体的にどこかノスタルジックな雰囲気だ。


 その美青年はなぜか、驚愕したような顔で私を見つめている。


「あのー、それはコスプレですか? これは何かの撮影ですか?」


 私が話しかけると、美青年は怪訝な顔をして眉を寄せた。


 そうですよね、本気で殺されかけましたもんね私。やっぱり、撮影じゃないですよね。それにしても憂いを帯びた顔も美し……って今はそれどころじゃなかった!


「あっ、助けてくれてありが」

「邪魔だ、下がってろアホ女」

「じゃ、邪魔? アホ女?」


 ついさっきレディとか紳士とか言ってたんじゃなかったの? 


 私が唖然とした瞬間、黒装束が美青年の背後から斬りかかった。美青年はこちらを向いたまま眉を寄せ、ごつい手袋でそれを受ける。再びキィン、と甲高い音が耳に響き、美青年は黒装束に向き直った。


「お嬢さん、こちらへ。レオン様の近くにいたら巻き込まれます」


 軽く手を引かれて振り向けば、金属製ゴーグル付き黒シルクハットの青年がいた。襟足長めの赤毛に、神秘的なグリーンアイ、品の良い控えめな微笑み方。こちらもキラキラした美形だ。落ち着いた眼差しには、大人の色香が漂っている。


 すごく気になるんだけど、その美しいカラコン、どこのブランドのですか?


 白いシャツに縦ストライプのベスト、皮革のパンツにゴテゴテしたロングブーツ……って、この人もやっぱり普通の格好じゃないけど、本当にコスプレ集団じゃないのかなぁ!?


 周りを見回してみれば、遠巻きにヒソヒソ野次馬している街の人たちを発見。ペラっとしたチュニックを腰ベルトで纏めたシンプルな出立ちの男性達、腰のあたりをキュッと絞った質素なワンピースの女性達。女性達が腕に下げた篭バッグから飛び出してる長いパンが、外国感を醸し出してる。


 美青年達ほどではないけど似たような、そこそこ豪華な格好の人も一部に見えるし、そもそも黒装束達の黒装束とマスクもおかしい。もうコスプレの祭典としか……。


 とりあえず促されるまま距離を取り、私は赤毛の青年に遠慮がちに尋ねた。


「レオン様って……?」

「今そこで、貴女のために戦っているあの人ですよ」


 言われて見てみれば、レオンと呼ばれた美青年はたった一人で、次々襲いかかる黒装束の剣を華麗にかわし殴りつけては、次々と地面に横たわらせていた。黒装束は皆帯剣しているのに、彼はなんと素手だ。

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