第5話

「えっ……なに、これ……?」


 目の前に広がる、蒸気が霧のように立ち込めて、至るところにパイプと歯車が溢れた街並み。空に浮かぶ飛行船。


 石畳の歩道にレンガ造りの家、それだけを見ればヨーロッパ辺りの外国に旅行に来ただけかと勘違いしたくなる。


 だけどコンクリートの道路に、蒸気を吹き出しながら走る不思議な形状の自動車らしきもの、そして続く街並みの果てに見える、轟音を立てながら大量の蒸気を吹き出す巨大な何かの機械装置が、私の甘い考えを全否定する。


 遠くで蒸気機関車の汽笛が高らかに鳴り響いた。と、唐突に腕を掴まれて我に帰る。


「捕まえたぞ、我等が生贄よ」

「!!」


 息を飲んで振り返れば、予想通りの黒装束達。振り上げられた剣が太陽の光を受けて輝くさまを、私は絶望的な気分で眺めていた。


「神の為に死ね……!」

「いやあああああ!」


 黒装束の剣が振り下ろされた瞬間、私は目をきつく閉じる。でも、その切先が私を襲うことはなかった。


 キィン、と響いた高い音に目を開ければ、弾き飛ばされた剣が空中で回転し、地面に落ちて転がる。私には何が起きたのか分からなかった。


「寄ってたかってレディに乱暴な真似とは、紳士のすることじゃねえな」


 私を背に庇った長身の男が、心地良い響きの声でそう言った。そして悠然と私を振り向く。

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