第18話 アイミュの現状
ニーナさんやエレンちゃんとの戦いの後、私は何とかレーナの待つ研究所に戻った。
なんか、最近新しく協力者になってくれたっていうお医者さんに診て貰ったりして……それが一通り終わった後、レーナとの話し合いの時間になる。
「さて、ようやくあのバカ姉の目的が分かりましたね。
「レーナ、その口ぶりだと……もしかして、王立研究所で研究されていた内容なの?」
「ええ、ニーナが提唱してほんの一時だけ議論されましたけど、すぐに却下されたんです。まあ、そりゃ当然ですよね」
魔人誕生計画──そのスタートラインは、
でも……人の体を魔物に作り替えるなんて研究、了承されるわけがなかった。
そして、代替案として形になったのが、魔装鎧だったと。
「そこから先はアイミュ様も知っての通り、魔装鎧すら問題だらけの技術だってことで、私とニーナは纏めて追放されました。でも、私が魔装鎧を諦めていなかったように、ニーナも魔物化の研究を諦めていなかったみたいです」
「でも……エレンちゃんの力は確かに魔物みたいだったけど、人類全てをあんな風に改造するなんて無理じゃない? どうやって一人一人の体を改造するの?」
ニーナさんは、エレンちゃんのことを最高傑作だって言ってた。
つまりは、“最高になれなかった”子だって当然いるはずで……それが姿を見せないってことは、そうそう成功するものじゃないってことだ。
とてもじゃないけど、人類全て魔物にするなんて……。
「……アイミュ様、魔物はどうやって誕生するか、知っていますか?」
「魔力が集まって、結晶化して、それを核に誕生するんだよね?」
「はい、その通りです。じゃあ……魔物に並ぶほどに魔力密度の高い人間の体内から、どうして魔物が誕生しないんだと思います?」
「……へ?」
思いもよらない問い掛けに、私は何の答えも返せなかった。
それを予想していたかのように、レーナは話し続ける。
「答えは分かりません! これまで色んな人が研究して来ましたが、ハッキリこれだと確信できる要因は分かっていないんですよ」
「そ、そうなんだ……」
「はい。そして、仮にこの原理が解明出来たなら……人を、その体内に最初からある魔力だけで、魔物に変えることが出来るんですよ。理論上ね」
「…………」
思った以上に恐ろしい話に、私はぶるっと体が震えるのを感じた。
「ニーナは恐らく、あのエレンという子に大量の魔力を摂取させることで、強引に魔物化を促したんでしょう。その過程を観察する事で、人の体が魔物化を防いでいる原理を突き止めようとした。……魔薬による魔物の発生促進は、その過程で偶然手に入れた力なんじゃないですかねー?」
「そう、なんだ……」
ニーナさんのためなら何だってやると、そう叫んでいたエレンちゃんの顔を思い出す。
あの様子だと、多分……エレンちゃんは、自分が最終的にどうなるかも全部分かった上で、その実験を受け入れたんだろうな……。
「それで……今の話をした上で、ボクはアイミュ様に一つ謝らなきゃいけないことがあります。すみません」
「へ? どういう事?」
「あの女が喚いていたのを聞いて、私ももしかしたら、と思って検査して貰ったんですか……アイミュ様の体、半分魔物になりかかってます。多分」
「……ほえ?」
予想外過ぎて、私は空いた口が塞がらなかった。
取り敢えず自分の体をあちこち触れてみて、何ともないよ? とアピールしてみるんだけど、レーナの表情は晴れないままだ。
「アイミュ様が炎竜の力に対してやけに耐性があるのは、アイミュ様の魔力操作能力だけが理由じゃなかったんですよ。五年前の炎竜事件、そこでアイミュ様の体に、炎竜の体の一部……鱗か何かが突き刺さって、そのまま体内に残っていたみたいです」
「えぇぇぇぇ!?」
ほら、と見せられたのは、レントゲン写真みたいな白黒の絵だった。
確かに、尖った何かの破片? みたいなのが胸のあたりにあるけど……ていうか待って、この世界もうレントゲンなんてあったの??
「この破片がアイミュ様の細胞と五年の時をかけて融合し、全身を炎竜に限りなく近い性質を持った人間に作り替えていたようです。……普通、こういう変化は激しい苦痛と理性の崩壊を伴うものなんですが……」
「私、五年間ずっと元気だったよ? 風邪だって引いたことないし」
「化け物ですか? ……いえ、この状況でこの表現は少し不謹慎ですね。アイミュ様、本当に人間ですか?」
「なんにも表現が変わってないんだけど」
化け物も人外も一緒だよ。
「ともかく、アイミュ様はこの炎竜の一部と恐ろしく相性が良かったために、無反動で体を魔物化することに成功しています。激レア症例過ぎて、もはやその存在を発表するだけで王室金十字勲章が貰えるレベルです」
「そんなに!?」
「はい。この後アイミュ様の体がどう変化していくのか、慎重に調べていかなければならないですが……今のところは、魔物であれば確実にあるはずの常時魔力欠乏状態から来る飢餓感も、肉体の変異や保有魔力量の増大もなさそうなので、問題はないでしょう。その意味では、ほぼ人間のままです」
「なら良かった……」
力が欲しいとは願ったけど、流石に化け物にまではなりたくないよ。
……少なくとも、私は。
「ただ、アイミュ様の体に問題はなくとも、それ以外の問題がないわけじゃありません」
ホッとしたのも束の間、レーナはこれまでで一番怖い表情で私に詰め寄ってきた。
「まず、ニーナに思いっきり目を付けられました。多分私繋がりでしょうけど、アイミュ様の正体にも勘づかれていましたし……ぜっっったいにあの女は、アイミュ様の体を解剖してでも“自然に”魔物化した原理を解明しようとするでしょう」
「……今後は、ニーナさんのターゲットが私や、私の周りにいる人達に絞られるってこと?」
「そういうことです」
それは嫌だと、私は拳を握り締めた。
私自身が傷付く分にはいい、狙われるのもドンと来いだ。
でも、周りを巻き込むのは……絶対に避けたい。
「いくらニーナでも、王都に乗り込んで悪さをするのは難しいと思いますから、当分は外に出ないでください」
「……分かった」
本当にそれでいいのかって疑問はあるんだけど、外に出たところで、結局生きていくには他人を頼るしかないし……その人を巻き込んでしまう可能性を考えたら、対策の目処が立つまでは王都に閉じこもるのも悪くない、はず。
そう自分を納得させようとする私に、レーナは手を伸ばした。
えっ、何?
「それともう一つ。魔装鎧はしばらく没収です」
「な、なんで!?」
「アイミュ様の魔物化が進行した原因に、魔装鎧の運用が関係している可能性もありますから。もう少し経過観察と研究が進むまで、戦闘は無しです」
「そ、そんなぁ……でも、いつニーナさんやエレンちゃんが乗り込んでくるかも分からないのに……」
何とか言い訳を重ねてデバイスを死守しようとするんだけど、そんな私にずいっと更に手を伸ばして来る。
そんなレーナの表情には、有無を言わさない迫力があって……とても逆らえなかった。
「いいから、渡してください。アイミュ様に本当に化け物になられると、私もおっかないあなたの家族に殺されかねないんですよ。冗談じゃなく」
「…………はい」
結局私は、しぶしぶと腕輪を手渡して……。
しばらくの間、無戦闘の謹慎を言い渡されるのだった。
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