第14話 友達の危機

 王城と一口に言っても、その敷地内には様々な建物や施設がある。


 王族が住まい、政務を行うための会議室やパーティーを開くための巨大ホールなんかがある王城の他、遠方から訪れた貴族や他国の王族が寝泊まりするための迎賓館、レーナがかつて勤めていた王立魔法技術研究所、それに……王立騎士団の詰所と、その訓練施設だ。


「せい!! てやぁぁ!!」


 そんな訓練施設で、やっと体が治った私は汗を流していた。


 私の力の源は魔装鎧マギアデバイスで間違いないんだけど、それがあれば訓練がいらないってわけじゃない。結局のところ、どんな武器も使い手次第だからね。


 だから、護身体術だけでもしっかり習得しようと頑張ってるんだけど……。


「良い動きだが、まだ甘い」


「ふにゃあ!?」


 私がいつも組手の相手をして貰っているお兄様には、なかなか勝てなかった。


 蹴り上げた足を掴まれ、そのままくるりと投げ飛ばされた私は、背中から地面に落ちてカエルが潰れたみたいな声を出す。


 そんな私に、お兄様は容赦なく告げた。


「寝るなアイミュ、敵は起き上がるのを待ってはくれないぞ」


「は、はいぃ!!」


 お兄様の言葉に反応して飛び起きると、私が寝ていた場所に鉄拳が降り注いだ。


 私が起きるのが遅かったら、顔がぺしゃんこだったよ!


「お兄様、容赦なさすぎ!!」


「容赦などしていては力など付かない。さあ行くぞ、もう一本!!」


「うぅ〜、分かった、今度こそぉ!!」


 泣き言を叫びながらも、私自身これくらいの厳しさが必要だってことは分かってるから、膝を突いたりなんてしない。


 全力で立ち向かう私に、お兄様も笑顔で応えてくれて……。


 見事にボッコボコにのされた私は、地面に転がって目を回した。


「きゅう……」


「よし、今日はここまでにしようか」


 首にかけたタオルで汗を拭いながら、私の顔の上に新品のタオルを被せるお兄様。


 ありがとうございました〜、ってタオル越しに呟くと、お兄様はそんな私を助け起こしてくれた。


「大丈夫か? 今日はリエラ嬢も来るという話だったし、休んでも良かっただろうに」


「そういうわけには行かないよ、こういうのは日々の積み重ねが大事だから。今日まで休んでた分、しっかりやらないと」


 お兄様の容赦のなさだけは怖いけど、と呟くと、当のお兄様は苦笑を漏らす。


 そのまま、おもむろに伸ばした手で私を撫で始めた。


「勉強も、これくらい頑張ってくれればいいんだがな」


「うえぇ……それはちょっと……」


「全く……まあいい。早くシャワーでも浴びて来い、汗で汚れた体でリエラ嬢の前に立ったら、笑われるぞ」


「はーい……あ、お兄様もちゃんと浴びておいてね? リエラさんが来る前に」


「? ああ、そのつもりだが……なぜ念を押す?」


「いいからいいから」


 お兄様はどうも、リエラさんを婚約者候補として見るつもりはなさそうだ。汗を流すのは日課だからであって、今日直接顔を合わせるつもりはないみたい。


 リエラさんに興味が無いというより、婚約そのものにあまり興味が無さそう。


 風の噂では、「別に誰でもいいから、一番国のためになりそうな相手を選んでくれ」ってお父様に判断を丸投げしてるとか。


 そんなの、妹として納得いかない。

 どうせ義理の姉になるなら、相手はちゃんとお兄様を幸せにしてくれる人がいいもん。


 リエラさんがそうであるかはまだこれから判断するところだけど、有力な候補なのは一度会った時に確認出来たから、場合によっては今日という日を利用して二人の距離を縮めたい。


「まあ、俺も挨拶くらいはするべきか……」


「そうそう、リエラさんだって本音では私よりお兄様に会いたがってるんだから」


「それは流石に言い過ぎだろう……」


「はあぁ……分かってないなぁお兄様は」


 やれやれとわざとらしく溜息を吐く私の頭に、お兄様は軽くコツンと拳骨を当ててきた。


 いたーい、とわざとらしく頭を押さえる私に、お兄様は苦笑を漏らす。


「俺のことを言う前に、まずは自分の身なりを整えて来い。ほら、行った行った」


「はーい」


 もう少しからかいたかったなぁ、なんて思いながら、私は訓練場を後にする。


 着替えついでにお風呂に入るため、王城の中に入ろうとして……その途中で、私のデバイスにレーナからの着信が届いた。


『アイミュ様、魔物が出たみたいです。何の前触れもなくいきなり現れたらしいので、間違いなくニーナの企みですね』


「分かった、すぐに行く。どこに出たの?」


『正確な場所は分かりませんが……どうやら、王都へ向かう途中のレバノン家の馬車が襲われているようですね』


「っ!?」


 リエラさんが襲われてる。

 そう聞いて、私はすぐに動き出した。


「方角だけでもいい、ナビゲートよろしく!! 《変身チェンジ炎竜フレアドラゴン》!!」


 人目のない場所ですぐに魔装鎧マギアデバイスを纏った私は、整備を終えたばかりのそれに即座に魔石を放り込んだ。


「《魔石装填チャージ》、《超過暴走オーバードライブ》」


 整備が終わったばかりの新型デバイスが、背中の翼を大きなロケットブースターに作り変える。


 魔力だけでこんな物を作れるなんて本当に変わってるけど、今はこの摩訶不思議な力に感謝するばかりだ。


 これがあるから、私はこうして友達の下へ駆け付けることが出来る。


「《噴炎飛行フレイムブースター》!!」


 ほんの数秒だけ、私の体を透明化して隠し、ブースターに点火。音すら置き去りにするような超加速で、私の体を大空へ吹き飛ばす。


 待っててね、リエラさん。今行くから!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る