第7話 今後の方針
ロケットブースターで現場に急行、なんていうとんでも体験をした私は、帰りは比較的ゆっくり飛行して戻ってきた。
あんな体験もうしたくない……っていうのもなくはないけど、一番は体への負担を考慮して、だ。
今日だけでもう二回、それも重ねる形で《
「ボロボロの体で王城に戻って、また当分は外出禁止、なんて言われたいなら止めませんけどね」
「それは困るから、大人しくゆっくり帰ってきたんじゃん」
現在、下着姿でベッドに寝転がった私の体を、レーナが魔法でチェックしてくれている。
その手元には、空中に浮かぶディスプレイみたいなノリで魔法陣が浮かんでいて、そこに表示された波形か何かをレーナは真剣な眼差しで見つめていた。
なんと言うか、ここだけみるとすごく近未来って感じだよね。
こういうのに限らずだけど、この世界って魔法技術がすごく進んでるから、既に一部区画では魔導列車が運行していたりとか、すごく近代的なんだよね。
まあ、車はまだなくて、主流な移動手段は馬車なんだけど。近いうちにお姉様あたりが開発しそう。
「ひとまず、体に大きな問題は無いですね、力の反動は想定の範囲内に収まってます」
「そっか、なら良かった」
じっとし続けたことで凝り固まった体を解すように、ベッドの上で大きく伸びをする。
ようやく一息吐けたところで、私は真剣な表情で問いかけた。
「それで……レーナは、今回の
「当然ですね。一応、根拠はありますよ」
そう言ったレーナは、どこからともなくホワイトボードを引っ張り出し、観測データと思しき紙をいくつもマグネットで貼り付けていく。
……うん、何が書いてあるか一つも理解出来ない!
十二歳相当の子供が勉強するような内容は、前世の知識でどうとでもなるけど、こんな専門知識はないんだよ!!
「まず一つ目。魔物災害、特に大規模なものが発生するには、大気中の魔力が一箇所に滞留する必要があります。条件は様々ありますが、少なくともこの短期間で二度も同じ国内で生じるのはまずあり得ません。一度生じれば、その付近の魔力濃度ほ大きく低下するはずですから、当然ですよね」
続けて、とホワイトボードに貼り付けられたのは、私が倒した魔物……キングゴブリンを写した二枚の写真だった。
「この二回の魔物災害で発生した魔物の種類は、完璧に同じでした。もちろん、地域によって生じやすい魔物に偏りはありますが、ここまで完璧に同じ魔物が同じ規模で生じるなんて、人為的な干渉なくして到底ありえないでしょう」
「どれくらいあり得ないの?」
「アイミュ様に明日隕石が直撃して死ぬ可能性くらいですかね」
なるほど、それは確かにまずあり得ないわ。
「ですので……このような超常現象を引き起こす手法が一体何なのかを解明するため、アイミュ様にも協力していただきますよ!」
「楽しそうだね、レーナ」
「それはもちろん、ボクがいくら考えてもとっかかりすら掴めない技術だなんて、楽しすぎて涎が出ちゃいそうですよ。上手く利用すれば魔装鎧の完成が近付くかもしれません!」
始まっちゃった……って感じだけど、レーナがそれを解き明かしてくれたら、これ以上の被害を食い止めるのにすごく役立つから、止めはしない。
きっとこの事件の先に、私が打ち破るべきラスボスが……“魔王”がいるはずだから。
「というわけで、アイミュ様には、災害発生前の魔力溜まりから、サンプルとなる魔力を採取してきて貰いたいのですが……」
「あの発生速度じゃ、魔力溜まりの段階で現着するの難しいよ」
「そこなんですよねえ」
今回、魔力溜まりが発生して、一晩経つ間に災害にまで発展していた。
場所にもよるけど、本当に近くで待機していたとかじゃない限り難しいと思う。
「まあ、想定される“敵”が魔物災害を引き起こすポイントには、ある程度法則性はあると思われます。そこから逆算して絞り込めば、張り込みも出来なくは無い……といいですね」
「レーナにしては珍しく、自信なさげだね」
「予測するにも、サンプルが少なすぎますもの」
こちら一応リストです、と発生予測地点が纏められた簡易地図を手渡される。
これを頭に入れておけば、いざという時レーナのところに行かなくてもすぐに出発出来るってわけだね。
「それと、サンプルの採取と戦闘に利用出来る
「分かった、よろしくね」
デバイスをレーナに渡して、私自身は旧式を着けて備えておく。
ロケットブースターは使えなくなるけど、最低限戦えればひとまずはそれでいい。
「それじゃあレーナ、私は行くね。過ごしやすい季節になってきたからって、あんまり夜更かししちゃダメだよ」
「アイミュ様こそ、朝はまだ冷えますからお腹出して寝ないように気を付けてくださいね」
「むぅ、しないよ!!」
相変わらず不敬極まりないレーナに文句を言いながら、私は王城に戻る。
今回はちゃんとお出かけするって伝えてあるし、怒られるようなことは……。
「もう日が沈んでますよ、アイミュ様。帰りが遅すぎます」
「はい……」
怒られた。
お付きメイドのニアに咎められた私は、自室の床に正座してお説教される。
やがて、足が痺れて立ち上がることすら出来なくなった私に溜息を吐きながら、ニアは私の体をベッドに移動させてくれた。
最後はポイって投げ落とす感じだったから、痺れた足に響いて悶絶することになったけど。
「やんちゃもいいですが、来週にはもうレバノン公爵家のご令嬢の誕生日パーティーですよ。準備もありますから、明日からはしばらくじっとしていてくださいね」
「……あ、そんな話もあったっけ」
完璧に忘れていた私に、ニアからの冷たい視線が突き刺さる。
いやその、仕方ないじゃん! 王女なんて立場だと、友達を作る機会もほとんどないんだよ! 顔見知りと言えるかも怪しい子の誕生日パーティーなんて覚えられないよ!
……いや待って、レバノン?
その名前に見覚えがあった私は、すぐにレーナから受け取った簡易地図を確認する。
「……やっぱり」
ニアが訝しげにこっちを見ていることに気を配る余裕もないままに、私はボソリと呟いた。
レバノン公爵領……それは、レーナが予想した次の魔物災害発生予想地点、その一つになっていたのだ。
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