第3話

一通り仕事を終え、マイクは外に空気を出た。


農場のさわやかな緑の匂いが鼻をくすぐる。


マイクは夜に星を眺めながら草に匂いを嗅ぐのが好きであった。


マイクがぼーっと心を静めていると


「「気をつけて、気をつけて」」


とどこからかかわいらしい少女のような声が重なって聞こえる。


 声が聞こえる方に目を向けると農場の片隅に咲いていたリンドウの花が光っているのが見えた。


 マイクはそれに気づき近寄ってみると、リンドウの花の中にリンドウ色の髪をした双子のような小さな少女と少年がいるのが見えた。




「「気をつけて」」


双子がマイクに向かって輪唱する。


「「優しい男の子、気をつけて」」


「何に気を付ければいいんだい?」


マイクは双子に向かって聞く。


「「大きな男の人、危ない。」」


双子はまるでそれが義務付けられているようにぴったりと輪唱する。


「それは、どんな人だい?」


「「大きな男の人、もじゃもじゃの髭がはえている」」


そういって口の周りをさする。


 双子はそのジェスチャーまでぴったり合わせたように行っていた。


 そして、それだけ言うと双子はパッと消えてしまった。




 マイクは消えてしまった双子がいないか花を動かしてみたがどこにも見つからず右往左往していると慌てた様子でレナおばさんが駆け寄ってきた。


「何があったの?」


そう言うレナおばさんの目はひどく真剣で鬼気迫るものがあった。


「この花の色の髪をした妖精みたいな双子が……」


とさっき聞いた話を繰り返すマイク。


「妖精をみたのね。……そう。大きな男の話も気になるわね。もじゃもじゃの髭の男は珍しくないわ。マイク、いいこと、絶対にこのことを人に話してはダメよ」


有無を言わせないいつにないレナおばさんの口調に


「う、うん」


とうなづくマイク。


「さぁ、いきましょう」


 その言葉を合図に2人で村長宅に戻るのであった。


                  


 マイクは村長宅の自分の部屋に戻るとベッドに横になった。


 するといつものように村長の息子・タナシが息子のタムタンを怒鳴っている声が聞こえた。後継者教育をしているというがマイクはそれが行き過ぎているような気がしてならなかった。


 しかしレナおばさんにその事を話しても


「世の中にはいろいろな家庭があるから……。関わってはいけないわよ。」


と、言うのであった。




                  ♦♦♦♦♦♦♦♦♦  




 ある日の事であった、空は強い雨で雷が鳴る早朝の頃である。この日は農作業は何もできないだろうというような天気の時であった。


 マイクは村長邸の食事事情を一手に担うレナおばさんに頼まれ朝食に使う食材を食糧庫に取りに行くと何やらひそひそと声がした。


 雨が強いため何を言っているのかは聞こえないが女性の声と若い男の子の声が聞こえた。


「……わかってるわね」


(この声はマヤおばさん?)


「……」


もう一人男の子と思わしき声は小さすぎて内容が全く聞こえない。


(扉を開けられればいいのに!)


マイクはそう思いながらもぐっと堪える。


 しばらくすると明らかに雨の音ではない水音が扉の奥から聞こえてきた。


 マイクも年頃である、その意味はわかっているため顔を赤くしそっとその場を離れた。




 急いでレナおばさんの元に戻るマイク。


「あら、食材はどうしたの?」


「そ、それが……」


そう言ってしどろもどろになるマイク。


 そしてそれを見てレナおばさんは察するのであった。


「あぁ、とうとう一線を越えてしまったのね。愚かな娘だこと。でも困ったわね、食材を取りにいけないわ……食材はもう少し後で取りに行って今日の朝は階下の人は簡単なものですませるしかないわね……。」


人数が人数だけにレナおばさんはいつも早起きして朝食を用意していたが、食糧庫が使用中とあっては何もできない。




 そうして15分も経ったころ、今度はレナおばさん自身が食糧庫に向かった。


 マイクも好奇心に釣られてこっそりついていくとマヤおばさんとタムタンが一緒に食糧庫からでてくるところであった。


 (あのふたりってそういう関係だったの!?)


 マイクは思わずでかけた声を必死に押しとどめた。


 レナおばさんは冷ややかな目でマヤおばさんを見つめる。


 


「あら、レナートさん。ごきげんよう」


マヤおばさんは挑発的にレナおばさんを見つめながら言う。


そしてそんなマヤおばさんの陰にタムタンは隠れていた。


「いずれ身を滅ぼすわよ」


きっぱりと言い切るレナおばさん。


「さぁなんの事かしら。」


マヤおばさんはそういうとすたすたと立ち去るのであった。


「何もないといいのだけれど……」

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マイク・デルフィン~幻想の守護者~ @okurahoma

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