第83話

そのまま帰るかと思ったが、理央はまだ『デート』を続行した。ツリーの広場の近くにある展望台だ。エレベーターで上がった先に足を踏み入れると、ガラス張りの夜景が視界を埋め尽くす。


 淡い曇り空の、蒼い絶景。いつも歩いている公園も見えた。高く聳え立つビルの尖った先端が、青く光りながら空に突き刺さっている。低層部に散らばる黄色や赤い光の渦は、煌びやかで幻想的だった。


 景色に見惚れている乃亜の背を、理央がポンと叩く。


「そろそろ行こうか」

「えっ、もう?」

「まだ上があるんだ」


 さらに上の階までエスカレーターで移動し、階段で最上層階へ。ガラスも柵もない、まさに吹きさらし。冷たい風にさらされて、凍えそうになった。


「寒っ……」


 思わず呟くと、理央が寄り添ってくる。ぴったりくっつくと、二人分の体温で寒さが和らいだ。


(あったかい……)


 暖まったのは、身体ではなく心。眼下に広がる、先程よりも高い場所から臨む素晴らしい夜景。雰囲気に押されるように、甘えて理央に寄りかかる。


「ずっと寒ければいいのに」


 思わず本音が漏れた。寒さを口実に、こうして恋人のように寄り添ってもらえるのなら、永遠に凍えそうな冬でいい。

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