第81話

乃亜の内心など知らない理央は、どこか嬉しそうに乃亜に尋ねてくる。


「どうだった?」

「うん、すごく綺麗だった」

「良かった。次は日本最大のクリスマスツリーだよ」

「日本最大?」

「高さ20mだって。さっきのプロジェクションマッピングと合わせて、今年限定のイベントらしいんだけど」

「へえ、すごい」


 話しながら辿り着いたツリーの周囲は、ひと目見ようと押し寄せてきた観光客で賑わっていた。


 七色の光を散りばめたようなクリスマスツリーは、白く消えていく息の向こう側で、眩しいほどに輝いている。黙って見上げていると、理央が隣から話しかけてきた。


「乃亜ちゃん。指輪、返してくれる?」


 一瞬、息が止まった。


「えっ……」

「ああ、変な意味じゃないよ」


 理央は乃亜の手袋を取ると、コートのポケットに入れる。続いて手渡されたのは、理央の指輪だ。


「どういうこと?」

「指輪交換しよう。日本一のクリスマスツリーの前で、模擬結婚式。いい考えでしょ?」


 言葉に詰まった。どういう意図を持って、そんなことを提案しているのだろう。理央の真意を図りかねて、乃亜は困惑する。


「俺、彼を見返す役に立ったよね。君のダイエットに協力するし、傷跡も治してあげる。だから、俺の夢を叶えてよ」


 いつかも言われた台詞だ。

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