第80話
雰囲気に酔いしれながら、隣の理央を伺い見た乃亜の心が、幸福感で満たされる。
クリスマスムードに溢れた街を、理央と歩いている。彼を独占している。まるで恋人のように寄り添って……。そこまで考えたところで、ぶら下げたままの自分の手が空しく思えた。
(お酒の力がないと手を出されないし、手も握ってもらえない。私、バカみたい)
乃亜には帽子まで被せたくせに、理央の手は剥き出しだ。寒そうなその手を温めてやりたくて、そろそろと指先を伸ばす。理央は気づいていないようだった。そして触れるか触れないかというところで、理央の手は彼のコートのポケットに突っ込まれてしまった。
「…………」
浮かれた雰囲気の中、顔を伏せる。
「乃亜ちゃん、どうしたの? 寒い?」
「ううん、大丈夫」
理央とのんびり歩いていると、どこからかパレードのような音楽が聞こえてきた。何事かと思った瞬間、突然目の前の建物が色とりどりに輝く。
プロジェクションマッピングの光で装飾されて、建物は一瞬のうちにファンシーなお城に変身した。次々に色や形を変えながら、暗い夜の中に明るく浮かび上がる。
「わあ……」
思わず声を上げると、隣の理央がにっこりと微笑んだ。目を合わせて微笑み、再び光のお城に目をやろうとした時だ。すぐ近くで寄り添い合うカップルの、固く繋がれた手と手が目に入る。対して、乃亜と理央、二人の間に空いた距離。
理央と恋人同士だったなら、どれだけ幸せだっただろう。そんなことを思うと、美しい景色が霞んで見えた。
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