「泣かないで、のんちゃん」

第79話

「ただいま、乃亜ちゃん」

「おかえり」


 乃亜はいつものように、玄関で理央を迎え入れる。


(あの夜から、ちょうど一週間……)


 理央をじっと見つめると、微笑んだ顔で小首をかしげた。


(一緒に寝ても何もない関係に戻っちゃったし、覚えてないんだろうな……)


 理央はコートを脱ぎながら、楽しそうに切り出す。


「今日は散歩じゃなくて、別のとこ行こう」

「別のとこ? どこ?」

「デートだよ」

「デート?」

「イヤ?」

「ううん、別にイヤじゃないよ」


 乃亜が首を横に振ると、理央は「よかった」と言いながら、乃亜の首にマフラーを巻きつける。ニット帽に手袋、分厚いコートと次々に着せられて、防寒対策バッチリな乃亜が出来上がった。マフラーからコートまで全て、理央がこちらで乃亜に買い与えたものだ。


「モコモコだね。可愛い」

「ブタさんとして?」

「違うよ。……乃亜ちゃんとして」

「…………」


 薄々察していたことが、確信に変わった。


(理央くん、『奥さん』って言わなくなった)


 一線を越えてしまったことは覚えていないとしても、積極的に色仕掛けなんかしてしまったからだろう。最近は理央と一緒にいればいるほど、次第に彼が遠くなっていく感覚だ。



 ◇ ◇ ◇



 二人で繰り出したクリスマスシーズンの街中はキラキラと輝き、幸せな雰囲気に包まれていた。無数のイルミネーションに、美しい装飾。生憎の曇り空だが、その薄暗さのおかげで、夕暮れ時にも関わらず光が映えている。

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