第78話

「や、やだ理央くん、こんなの恥ずかしいよ」

「こうやって見せつけたくて、あいつ呼んだんじゃないの?」

「違っ、そんなんじゃない」

「もしそうなら……、言ったよね? めちゃくちゃに抱くって」


 乃亜は放心した。まさか、理央は乃亜を抱こうとしているのだろうか。今まで決して手を出してこなかったのに。あまりに急な展開に思考が追いつかない。


 ふと、乃亜の目に、理央が空にしたたくさんのビール缶が飛び込んだ。


(理央くん……酔ってるんだ)


 ソファに雪崩れ込み、激しいキスを受け入れる。


(酔った勢いでこんな……)


 じわりと涙がこみ上げた。翻弄してくる理央の指先に反応して、上ずった声が漏れだす。決してむなしい気持ちがないわけではなかった。


(でも……それでも嬉しい)


 初めて出会った時もお酒の勢いだったが、途中で終わってしまった。乃亜にも記憶がなかった。でも今は、乃亜にだけははっきりと意識がある。


 愛されていると錯覚するほどの、理央の優しい愛撫を感じられた。乃亜の身体を揺さぶりながら、強い眼差しで見下ろしてくる切ない顔がよく見えた。


 彼のそんな顔を見ているだけで、いとおしさでいっぱいになり、胸がきゅんとしめつけられた。


 酔った勢いでしか、理央にとっての『女』になれない哀れな自分。心の中で、幸福感と空虚感がせめぎ合う。上がった自らの息の中、乃亜は理央の背中に腕を回した。

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