第76話

「なんでそんなに無理するの? 実家に戻ってから、ゆっくり痩せればいいんじゃないの?」

「それじゃダメなの。こっちにいる間に痩せなきゃ意味ない」

「……頑張るんだね。意味ない、か。確かにそうだね、帰ってから痩せても、あいつがいないしね」

「あいつって、健ちゃんのこと? 健ちゃんのことを見返すとか、今はもうどうでもいいの。私ね、」


 あなたが好きだから、あなたのために痩せたい。喉まで出なかったその言葉を、口にすることはできなかった。


(言えない。太ったままの私じゃ……)


 伝えても散るだけ。痩せてからでないと、絶対に告白はできない。


「私は……」


 口籠もって俯いた乃亜をどう見たのか、理央は真顔のままだ。


「別に誤魔化さなくていいよ、君の気持ちはわかってるから。食べたくないなら、好きにしなよ」


 そう言って部屋を出て行った理央だったが、僅か一分足らずで戻ってきた。ダイニングテーブルに座ったまま、冷めた食事と睨めっこする乃亜の背中から腕を回し、抱きしめてくる。

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