第74話
「いらないよ。ダイエット中にジャンクフードはダメって、理央くんが言ったんでしょ?」
「…………」
ソファに座ると、理央はハンバーガーを食べ始めた。冷蔵庫からビールもとってきて、まるで自棄になったように何本も開けていく。
その様子を、困惑しながら突っ立って眺めているしかない乃亜。やがてハンバーガーを食べ切った理央は、空き缶を見つめながら淡々と切り出した。
「君、そろそろ実家に帰りなよ。傷跡は治してあげるからさ」
「えっ……」
思いもよらぬ提案に、乃亜は頭を殴られたかのようなショックを受けた。突き放された気がした。
(こんな格好して、女として見てほしいって言っちゃったし……迷惑がってるんだろうな)
理央はそれ以上何も言わず、部屋を出て行った。だが今や、そんなことで引き下がれるほど、乃亜の気持ちは軽くない。シャワーを浴びて戻ってきた理央を前に、乃亜は嘘を口にした。
「理央くん。親に電話したんだけど、健ちゃんと仲直りしてきなさいって言われちゃって……」
(本当は電話すらしてないけど)
ギリギリまで理央のそばに居座るための、真っ赤な嘘。
もし今傷跡を治してもらったら、その直後に、契約結婚に了承するかどうか返事をすることになるだろう。考える時間も、理央にアピールするチャンスも得られないまま。
(好きだからこそ、愛のない結婚はしたくない。契約結婚の前に、痩せてちゃんと告白したい!)
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