第73話

「君、彼を見返すため痩せたかったんだよね。目標は達成したし、約束通り傷跡は治すよ。それでいいんじゃないの?」


 ふるふると首を横に振る乃亜に、理央が苛立ちをあらわにする。


「なんで? 何のために痩せるのさ」

「……だって! もっと痩せなきゃ、女として見てもらえないんだもん!」


 思わず口をついて出た本音に、ハッと口元を覆う。まだ気持ちを伝えるつもりはなかったのに、これでは告白しているようなものだ。


 理央は言葉を失ったかのように黙り込んでいる。乃亜は拳を握りしめた。


「だから私、まだ痩せなきゃ……」


 ふいっと顔を逸らし乃亜に背を向けると、理央は押し殺したような声で呟く。


「そんなに戻りたいんだ」

「それは、戻りたいよ。昔の痩せた私に」

「そういう意味じゃなくてさ……今日、彼と会う約束でもしてたの?」

「ううん、してないよ。たまたま会っただけで……」

「そう。でも今後はわからないよね。君がこっちにいる限りは、あいつも近くにいるわけだから」

「あっ、理央くん、待って!」


 歩き出した理央に慌ててついて行く。無言の理央はハンバーガーショップに寄り、フライドポテトにコーラまでつけて、2段ハンバーガーを二人分テイクアウト。マンションに帰るなり、乃亜に差し出した。乃亜は困惑しながら首を横に振る。

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