『女』になりたい

第68話

風邪が治った後、乃亜は本気のダイエットに没頭した。白米の量を普通盛りに減らし、運動量を増やし、必死な努力を続ける。


 そんな日々を過ごした後のある朝、いつものように体重計に乗った乃亜は、その数値を見て表情を明るくした。


(ダイエット開始から、マイナス8kg……)


 そして全身を映した鏡で、自分の体型を眺める。お腹の肉が減り、くびれができた。筋肉がついて引き締まった。まだまだぽっちゃりの域は出ないが、随分マシになった。


(これだけ痩せれば、もしかしたら理央くんも……)


 見た目が変わったことで、次第に乃亜の心に芽生える期待。しかし相変わらず、毎晩一緒に眠っていながら、理央との間には何も起こらない。優しい理央と過ごす、波風の立たない、穏やかすぎる日々。


 そんな日常を壊したくて、痩せた今ならもしかして、という一縷の望みに背中を押されて。いつものようにベッドで理央に抱きしめられながら、乃亜は彼の背中に腕を回し、わざと胸を押し付けた。


(まだ告白する勇気はない。でも受け入れてくれたら、女になれたら……言えるかもしれない)


 いつもと違う乃亜の様子に、乃亜の後頭部を撫でて応える理央。


「どうしたの、甘えたい気分?」

「理央くん……」


 想いを込めて呼んだ名前は、甘えたような響きを帯びていた。


 切実な乃亜の表情を見た理央は、しばし動きを止めた後、やや性急に乃亜の唇にキスをした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る