第67話

「理央はまだ帰ってないの?」

「帰りに買い物に行くって言ってました」

「そう、まあいいわ。私は今日、あなたと話しに来たんだもの」

「私と……?」


 彼女の目的が見えず、乃亜は困惑を深めるばかり。千夏は上着も脱がないまま、バッグから何かを取り出し、乃亜に突きつけた。写真だ。受け取ってよく見れば、理央とふくよかな女性が並んで映っている。


「理央くんと……誰?」

「それ、理央と出会った頃の私よ」

「えっ!?」


 乃亜は目を見開いた。まるで別人だ。千夏は悔しそうに顔を歪ませる。


「昔の私みたいに、ただ自分を甘やかしてるあなたが、どうして理央のそばにいるの?」

「っ!」


 痛いところを指摘されて、乃亜は息を呑んだ。


「私は振り向いてもらうために必死で努力したわ。今も努力し続けてる。あなたは彼から手を引きなさいよ」


 千夏の言葉が、乃亜の胸に突き刺さった。傷ついた自分を甘やかして、楽な方に逃げる。それは今まで乃亜が選択して来た生き方で、その結果として今の乃亜がある。だから自分を好きになれなかった。


 原因は心の弱さ。変わらなければいけないのは、体型だけではなかったのだ。


「……嫌よ。私だって、あなたに負けない」


 そう言って、挑むように千夏を見つめる。乃亜の反応が予想外だったのか、千夏は驚いた様子だ。乃亜は勢いそのままに続ける。


「変わってみせる。理央くんが好きだから!」


 もう、甘えた自分とはさよならしたいと思った。彼を愛し愛されたいなら、愛される自分になる。


 乃亜が絶対に痩せると決心した瞬間だった。

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