変わってみせる、好きだから

第66話

理央への思いを自覚してからというもの、乃亜は葛藤してばかりの日々を過ごした。


「じゃあ乃亜ちゃん、行ってくるね」

「いってらっしゃい」


 玄関で理央を見送った後は、決まって乃亜の顔から笑顔が消えて、憂鬱な顔になる。飽きもせず脳裏に浮かぶのは、熱を出した理央を心配そうに眺めていた千夏の姿。スタイル抜群の彼女は、乃亜のコンプレックスを最も刺激する人物と言ってよかった。


 いつものように部屋でストレッチをこなしながら、乃亜は独り言を漏らす。


「私、理央くんを好きになってどうするつもりなんだろう。契約結婚するの?」


(結婚した後でも、痩せれば愛される? でも痩せるまでは愛のない結婚だし、痩せられる保証もない……)


 考えても答えは出ない。ストレッチを終えた乃亜は、チラリと時計を見た。


(もう少しで理央くんが帰ってくる。散歩の準備しておこう)


 未だに雨の日以外は、理央と散歩している。今や毎日の楽しみだ。


 乃亜が着替え終わった頃、チャイムの音と共に、誰かが部屋に入ってくる気配を感じた。扉を開けて入ってきた姿に唖然とした乃亜は、ややあって恐る恐る問いかける。


「千夏……さん?」


 仏頂面の千夏は、艶のある長い髪を払うと、部屋の中を見回した。

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