第65話

(私、嫉妬してるの……?)


「乃亜ちゃん」


 か細い声をかけられて理央を見てみれば、両手をこちらに伸ばしていた。コホコホと咳をしながら頬を上気させ、瞳を潤ませている。高熱で辛いのだろう。


「君も病人だけど、俺、熱の高さで君に連勝してるからさ。抱きしめさせてよ。いいでしょ?」


 こちらの返答を聞く気もなかったようで、病人にしては強い力で、理央は乃亜を引き寄せた。すっぽりと収まる、いつもよりも暖かい腕の中。跳ね上がる鼓動は、最早嘘をつけない。


(初めは、健ちゃんを見返すためのダイエットだった。でも今は?)


 乃亜は理央の胸元で、彼の服を握りしめた。


(女として見て欲しい。だから痩せたい。この人の理想の私になりたい)


 どうやら乃亜の熱も上がって来たようだ。身体は辛くても、心は幸せで満ちている。理央に寄り添いながら、乃亜は目を閉じた。


(私、理央くんが好きなんだ)

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