第63話

翌朝、二人は39度を示した体温計を枕元に転がしたまま、揃って寝込んでいた。幸い理央の仕事は休みだったため、二人で昨夜の食べ残しを何とか口にして、寄り添って眠った。


 昼前に目覚めた乃亜は、ぼんやりとした眼差しで、眠り込む理央のおでこに手を当てる。


(うわ、私より熱い。理央くんの仕事が休みで、本当によかった)


 乃亜も辛いのだが、彼を世話できるのは乃亜しかいない。


「おかゆ、作らなきゃ……」


 這うようにベッドを出て、キッチンへ。ドアを開けた瞬間、乃亜は固まった。キッチンに誰かが立っていたのだ。


(え……誰?)


 何やら料理をしている、美しい女性。乃亜とは正反対の、スタイルも完璧な美女だ。戸惑うばかりの乃亜に、突然登場した彼女は話しかけてきた。


「あなたが乃亜?」

「は、はい?」

「理央が熱を出したと聞いて、飛んできたの。勝手にキッチン借りて悪いわね」

「聞いたって、彼からですか?」

「ええ。休みのうちに治すつもりだけど、もし長引いたら代わりを頼むって。私も医者だから」


(女医さん……)


「あなたもお粥食べる? 辛そうだけど」

「いえ……けっこうです」

「そう」


 お粥の皿をのせたお盆を手に、美女は乃亜の横を素通りして寝室へと向かっていく。乃亜は慌てて後を追った。


 ベッドのサイドテーブルにお盆を置き、美女は眠り込む理央の胸を優しく叩いた。

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