第61話

目の前に運ばれてきたありがたい料理に、「いただきます」と手を合わせる。しかし昼食もそうだったが、今日はなかなか箸が進まない。見かねた理央が口を出した。


「乃亜ちゃん、食事抜くダイエットは駄目だって」

「違うの、なんか食欲がなくて。そう言う理央くんだって食べてないじゃない。好き嫌い?」

「好き嫌いじゃないよ。俺も食欲がなくて。今朝から喉が痛いし」 


 乃亜は理央と顔を見合わせる。


「「もしかして?」」


 声を揃えて、おでこを合わせてみるも同じ温度。理央の後に手渡された体温計を脇に挟むと、ややあって表示された数字に、乃亜は自分で驚いた。


「38.2もある!」

「俺、38.4だった。俺の勝ちだね」

「もう、何の勝負してるの?」


 二人は風邪薬を飲み、ドタバタ着替えてベッドへ。並んで横になると、理央は乃亜を引き寄せる。シーツを被った状態でぴったりくっつくと、お互いの熱で暑いくらいだ。


「俺達、ずっと一緒だからさ。寝るのも起きるのも一緒。風邪ひくのも一緒。夫婦って感じだよね」

「うん……」


 一カ月というのは、短いようで短くない。理央が仕事に行く時以外、一日の大半を一緒に過ごしているから尚更だ。乃亜の中には、すっかり彼の存在が刻み込まれてしまった。

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