第60話

(でも、抱き合って眠る毎日を過ごして一カ月、結局何もなかった……)


 乃亜は憂鬱な顔で自分の体を見下ろす。


(多少痩せても、まだまだぽっちゃり体型。相変わらず女として見られてないんだよね)


 毎日、落下したらおしまいの綱渡りをしているかのよう。乃亜はテーブルの上の、理央お手製ダイエット冊子を手に取った。折れ線グラフは下降する一方だ。


「このまま順調に痩せていけば、いつかは理央くんに女として……」


 そこまで言いかけたところで頭を振る。


(頑張っても、数ヶ月で細身になれるわけない。かと言って年単位でここにいるわけにも……)


 乃亜の表情が暗く沈んだ。


 乃亜が納得すればいい、という、曖昧なダイエット合格ライン。簡単には到達できない、理想の体型。だが食事を抜く不健康なダイエットは、理央が許さない。一体どこを目指せばいいのだろう。重たいため息を吐き出すと、体まで重くなった気がした。続いて咳を一つ。


(運動で疲れたから? 身体がだるいような……朝から喉が痛いし)


 結局それから、ソファに座り込んで過ごした。やがて夕方になり、スーパーの買い物袋を手に帰ってきた理央は、部屋に入るなり身震いした。


「おかえり、理央くん」

「ただいま。あー寒かった、急に冷え込んできたよね。今日は雨だから散歩はお休み。ご飯作るから待っててね」


 相変わらず料理は理央担当で、乃亜は何もせず上げ膳据え膳の毎日。これでいいのか迷うものだが、理央がキッチンに立ち入らせないので仕方ない。初回で余計なことをしたから、信用がないようだ。

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